71〜80


風遊戯71●しない歌とやってみようの歌

 

しない

しない

なにもしない

なにかしなくちゃ不安なときは

なにもしない

 

やってみよう

やってみよう

なんでもやってみよう

なんにもやる気にならないときは

なんでもやってみよう

 


風遊戯72●私が私であること

 

目がなくなり

耳がなくなり

鼻も口も手も足も頭もなくなり

なんにもなくなってしまった自分を想像する

 

私が私である

そのことが不思議だ

 

モニターの中で動きまわっていた自分が

少しずつ消えていく

ソフトの異常かハードの異常か

キーボードの前の私が腕を組む

 

私が私である

そのことが不思議だ

 

私を見たがらない私という現象がある

私から自由になろうとして自由を失う私の幻がある

 

私が私を映し出すための鏡が現われる

私が自由になろうとして幻を消そうとするドラマがある

 

私が私である

そのための芝居が

限りなくスリリングだ

 

 


風遊戯73●劇場遊戯

 

日と月の暦をめくり一人

冷気の中に杯を掲げる

 

一幕の芝居が終わり

また新たな幕が開く

 

劇中の運命は一時の遊戯

劇を演じるも観るもまた我

 

杯に映る月

そしてその月に映す想い

 

映るも我

されど映らぬも我

 

今宵杯を掲げ

我という劇場を祝う

 


風遊戯74●答え

 

いいなと思ったら

いいなって言える

いやだなと思ったら

いやだなって言える

 

なぜってきかれたら

思っていることを答える

わからないときは

なぜなんだろうと答える

 

わからないで何かをしたり

わからないで何かを言ったりする

そんな自分を見つけたら

なぜそんなことをしたのか

なぜそんなことを言ったのか

ちゃんと考えるようにしたいな

 

でもいっしょうけんめい考えても

どうしても答えがでないときがある

そういうときのほうがずっと多いくらいだ

でもそういうときにも

急がないで

最後まで答えがでなくても

ほんとうの答えを探したいなって思う

 


風遊戯75●距離

 

あなたに近い

そう感じる心地よさ

あなたから遠い

そう感じるさびしさ

 

近いってなんだろ

遠いってなんだろ

同じ距離なのに

近かったり遠かったりする

 

モノサシで測れる距離は

心の距離にはかなわないんじゃないかな

モノサシで測れないほどまるっきり近くなったり

到底測れないほどはるか遠くなったりするから

 

仲良しの距離や孤独の距離

愛情の距離や嫉妬の距離

感動の距離や不安の距離

そんな近かったり遠かったりする距離を越えて

私が私に限りなく近く

私が私に遠限りなく遠い

 

私は一人だった

それとも二人

距離が合わせ鏡の中で散乱する

 


風遊戯76●はだかで戦争する

 

はだかで戦争する

武器はもたない

はだかのまんま

 

はずかしいかもしれない

でもすぐになれっこになる

男と女だってすぐになれっこになる

 

はだかで戦争する

ことばにも武器はもたせない

はだかのまんま

 

腹がたったらそれをぶつければいい

でもことばで傷つけるのは反則

ワンツースリーでやめないと退場

 

はだかで戦争する

お化粧はしない香水もつけない

でもちゃんと清潔にしておくこと

 

戦争をやめたくなったら仲直りすればいい

気まずく思わなくていい

白旗ふって笑えばいい

 

はだかで戦争する

はだかで仲直りする

はだかで遊ぶ

 


風遊戯77●新しい年に

 

新しい年に何を飾ろう

形だけのものは飾るまい

祈りにふさわしいものだけを飾りたい

 

新しい年に何を贈ろう

手垢のついたものは贈るまい

未来を開くにふさわしいものだけを贈りたい

 

新しい年に何を語ろう

愛のない言葉では語るまい

ともに生きる勇気にふさわしいものだけを語りたい

 

新しい年に何を求めよう

自由でないものは求めまい

みずからを見つめる勇気だけを求めたい

 

 


風遊戯78●魂のための祈り

 

人の生は水のようだ

天から下っては地を潤し

地下水となって蓄えられ

また川となり海に流れ込み

やがてふたたび天に帰りゆく

水のようにしなやかに流転する魂のために

どんな祈りを捧げようか

 

人の生は火のようだ

姿なきものから生まれ

大地にあるものを焼きながら

みずからは仮の姿でゆらめきながら育ち

姿なきものとして消えてゆく

火のように焼き尽くされ再び甦る魂のために

どんな祈りを捧げようか

 

人の生は風のようだ

みずからはその姿を見せぬまま

ときには強くときにはやさしく

空を自在にどこまでも巡り

消えたかと思えばまたどこからともなく現われる

風のように自由に戯れ続ける魂のために

どんな祈りを捧げようか

 


風遊戯79●永遠へ

 

どこへ行こうとしているのだい

ああ友達が待っているんだ

忘れかけていたけど思い出した

はるか昔に交わした約束

いやそんなに昔のことじゃない

この国にいるとすべてがはるか遠くに思えてくる

ほんとうはいつも永遠の途上にいるのにね

 

こころの火は燃えているかい

ああ消えないようにしとかないと

あやうく薪をくべるのを忘れるところだった

凍えないようにしないとね

この薪はわたしのこころ

わたしのこころを燃やしてわたしは暖まる

わたしはいつも生まれ変わることができる

 

あの歌をおぼえているかい

ああいつのまにか聞こえなくなってしまっていたよ

歌のないいのちなんて考えられないのに

星と星が花と花が水と水がこうして

いのちの旋律を交差させて合唱するんだ

わたしもいっしょに歌ったのだった

そうして永遠の螺旋をのぼっていったのだった

 


風遊戯80●遠い場所

 

どこか遠い場所で見た風景がある

それはひょっとしたら私のかつていた場所

記憶の片隅にある道

空まで続く一本の道

 

どこか遠い場所でお会いしましたか

それは懐かしい原風景のような場所

あなたとわたしがそこで語り合った部屋

ああそれはどこだったのか

 

空には雲たちが未来に向かって飛び交い

階段は鳥の翼のように私を育み

ほんのつい先ほどまでそこで午睡を過ごしていた

そんな記憶が今もどこかで流れている

 

どこか遠い場所でまたお会いできますね

あなたの辿っていった岡の道は

あれはいったいどこに向かっていたのか

わたしはあの日からあなたを探していたのかもしれない

あなたに尋ねるために

そう

わたしがいったい誰なのかを尋ねるために

 

         *白石裕三油彩展「名付けられない時間」より

         

 


 ■「風遊戯」メニューに戻る

 ■神秘学遊戯団ホームページに戻る