しない
しない
なにもしない
なにかしなくちゃ不安なときは
なにもしない
やってみよう
やってみよう
なんでもやってみよう
なんにもやる気にならないときは
なんでもやってみよう
目がなくなり
耳がなくなり
鼻も口も手も足も頭もなくなり
なんにもなくなってしまった自分を想像する
私が私である
そのことが不思議だ
モニターの中で動きまわっていた自分が
少しずつ消えていく
ソフトの異常かハードの異常か
キーボードの前の私が腕を組む
私が私である
そのことが不思議だ
私を見たがらない私という現象がある
私から自由になろうとして自由を失う私の幻がある
私が私を映し出すための鏡が現われる
私が自由になろうとして幻を消そうとするドラマがある
私が私である
そのための芝居が
限りなくスリリングだ
風遊戯73●劇場遊戯
日と月の暦をめくり一人
冷気の中に杯を掲げる
一幕の芝居が終わり
また新たな幕が開く
劇中の運命は一時の遊戯
劇を演じるも観るもまた我
杯に映る月
そしてその月に映す想い
映るも我
されど映らぬも我
今宵杯を掲げ
我という劇場を祝う
いいなと思ったら
いいなって言える
いやだなと思ったら
いやだなって言える
なぜってきかれたら
思っていることを答える
わからないときは
なぜなんだろうと答える
わからないで何かをしたり
わからないで何かを言ったりする
そんな自分を見つけたら
なぜそんなことをしたのか
なぜそんなことを言ったのか
ちゃんと考えるようにしたいな
でもいっしょうけんめい考えても
どうしても答えがでないときがある
そういうときのほうがずっと多いくらいだ
でもそういうときにも
急がないで
最後まで答えがでなくても
ほんとうの答えを探したいなって思う
あなたに近い
そう感じる心地よさ
あなたから遠い
そう感じるさびしさ
近いってなんだろ
遠いってなんだろ
同じ距離なのに
近かったり遠かったりする
モノサシで測れる距離は
心の距離にはかなわないんじゃないかな
モノサシで測れないほどまるっきり近くなったり
到底測れないほどはるか遠くなったりするから
仲良しの距離や孤独の距離
愛情の距離や嫉妬の距離
感動の距離や不安の距離
そんな近かったり遠かったりする距離を越えて
私が私に限りなく近く
私が私に遠限りなく遠い
私は一人だった
それとも二人
距離が合わせ鏡の中で散乱する
はだかで戦争する
武器はもたない
はだかのまんま
はずかしいかもしれない
でもすぐになれっこになる
男と女だってすぐになれっこになる
はだかで戦争する
ことばにも武器はもたせない
はだかのまんま
腹がたったらそれをぶつければいい
でもことばで傷つけるのは反則
ワンツースリーでやめないと退場
はだかで戦争する
お化粧はしない香水もつけない
でもちゃんと清潔にしておくこと
戦争をやめたくなったら仲直りすればいい
気まずく思わなくていい
白旗ふって笑えばいい
はだかで戦争する
はだかで仲直りする
はだかで遊ぶ
新しい年に何を飾ろう
形だけのものは飾るまい
祈りにふさわしいものだけを飾りたい
新しい年に何を贈ろう
手垢のついたものは贈るまい
未来を開くにふさわしいものだけを贈りたい
新しい年に何を語ろう
愛のない言葉では語るまい
ともに生きる勇気にふさわしいものだけを語りたい
新しい年に何を求めよう
自由でないものは求めまい
みずからを見つめる勇気だけを求めたい
風遊戯78●魂のための祈り
人の生は水のようだ
天から下っては地を潤し
地下水となって蓄えられ
また川となり海に流れ込み
やがてふたたび天に帰りゆく
水のようにしなやかに流転する魂のために
どんな祈りを捧げようか
人の生は火のようだ
姿なきものから生まれ
大地にあるものを焼きながら
みずからは仮の姿でゆらめきながら育ち
姿なきものとして消えてゆく
火のように焼き尽くされ再び甦る魂のために
どんな祈りを捧げようか
人の生は風のようだ
みずからはその姿を見せぬまま
ときには強くときにはやさしく
空を自在にどこまでも巡り
消えたかと思えばまたどこからともなく現われる
風のように自由に戯れ続ける魂のために
どんな祈りを捧げようか
どこへ行こうとしているのだい
ああ友達が待っているんだ
忘れかけていたけど思い出した
はるか昔に交わした約束
いやそんなに昔のことじゃない
この国にいるとすべてがはるか遠くに思えてくる
ほんとうはいつも永遠の途上にいるのにね
こころの火は燃えているかい
ああ消えないようにしとかないと
あやうく薪をくべるのを忘れるところだった
凍えないようにしないとね
この薪はわたしのこころ
わたしのこころを燃やしてわたしは暖まる
わたしはいつも生まれ変わることができる
あの歌をおぼえているかい
ああいつのまにか聞こえなくなってしまっていたよ
歌のないいのちなんて考えられないのに
星と星が花と花が水と水がこうして
いのちの旋律を交差させて合唱するんだ
わたしもいっしょに歌ったのだった
そうして永遠の螺旋をのぼっていったのだった
どこか遠い場所で見た風景がある
それはひょっとしたら私のかつていた場所
記憶の片隅にある道
空まで続く一本の道
どこか遠い場所でお会いしましたか
それは懐かしい原風景のような場所
あなたとわたしがそこで語り合った部屋
ああそれはどこだったのか
空には雲たちが未来に向かって飛び交い
階段は鳥の翼のように私を育み
ほんのつい先ほどまでそこで午睡を過ごしていた
そんな記憶が今もどこかで流れている
どこか遠い場所でまたお会いできますね
あなたの辿っていった岡の道は
あれはいったいどこに向かっていたのか
わたしはあの日からあなたを探していたのかもしれない
あなたに尋ねるために
そう
わたしがいったい誰なのかを尋ねるために
*白石裕三油彩展「名付けられない時間」より