51〜60


風遊戯51●鏡のあわいで

 

はて わたしはどこへいったのだろう

 

わたしはかつてみずからに刺客を送った

わたしはかつて世界を陰画にした

 

生きているという欲望から

恋や悲しみや渇きやときめき

そんなみんなが踊り狂いはじめたとき

わたしはこう言ったものだ

「はて わたしとはいったいだれなのか」

 

わたしという潜り戸から絶え間なくやってくる

あの名づけようのない影たち

そして両手に剣を携えたその影を追う者

閉じた瞼から光が輝きはじめてから

その輝きを追ってきたかのような存在者たち

 

言葉はわたしに重く

生きていることと言葉とが錯綜する道を

とぼとぼと歩いていくわたし

 

声が聴きたい

けれど声が怖い

 

わたしはみずからを消そうとしたのだ

鏡に映る自分を亡き者にしたかったのだ

生きている欲望から逃げようとしたのだ

 

さて わたしはどこへいったのだろう

そしてわたしはどこからきたのだろう

それを問うわたしと答えるわたし

 

鏡のあわいでうずくまる虚の時間が

わたしの魂のなかで発酵した世界が滴る

 


風遊戯52●戯れ歌

 

さみしい腹のうえをすべる指のじかん

ほほそめるひとのせなかにかく文字

ひめやかにあるく部屋のまどのそとで

かつてわたしの恋した瞳たちが笑っている

この息をとどけるんだこのあたたかい息を

あのくちびるをとどけるんだあのやわらかいくちびるを

いつまでも響きつづける哄笑の波にのって

はずかしいうつくしい物語がおしよせる

かつてすべての恋人にかたられつづけた話

神話のなかで戯れつづけていた風の精たちの息

かつていきていた死者たちの声を

ひすいのような色の織物にして

あなたのもとへ送ろうか

わたしのゆびの真紅の血のいにしゃるを添えて

 


風遊戯53●封印

 

かつて 私は私を切り離した

そして影として生きるようになった

 

影は太陽の反対の世界

真実を封じられ

私はあなたから遠くなった

 

しだいに影は影であることさえ忘れ去った

「なぜ」と問うことさえもなくなった

 

光あれ

しかし、そこに光はなく

光の反映だけがあった

むしろ闇だとされるところに光はあった

 

私は本来の私ではない

それに気づいたとき

光が見えないことに気づいた

「なぜ」と問うことを試みた

 

影の私よ

光の私はどこに

 

声は語った

「汝は封印されたのではない

「汝はみずからをを封印した

「それは影になるためではなかった

「光が光になるための試練だったのだ

 

さらに声は語った

「影よ、影として光を見出せ

「影とともに歩み影を光とせよ

「汝のなかから光を溢れさせよ

「それが汝の封印の意味なのだから

 


風遊戯54●無常の中の永遠

 

花の色はどこからきたのだろう

風の歌はだれに捧げられたのだろう

 

  咲き乱れるものは無常

  移ろいやすいものこそ永遠

 

惑星は色彩の糸を流し

鳥は羽ばたきの果てに空に帰る

 

  火星の色が流れ込み

  空に深紅の月が出る

 

海の鼓動はだれの血潮なのだろう

山の静謐は何を告げているのだろう

 

  繰り返すものは無常

  語らぬものこそ永遠の言葉

 

月は秘密の言葉を語り

地下の湖は封印された祈りを湛える

 

  封印された言葉が流れ出し

  無常の中の永遠が語られる

 


風遊戯55●見えない真実のために

 

赤い 赤い 月の 裏側 で

はねる 兎 なに見て はねる

見える月は 嘘 見えない月が 真実

 

ぎら ぎら 太陽の 裏側 で

翔る 天使 なにを願い 翔る

見える太陽は 嘘 見えない太陽が 真実

 

嘘の光が 金をつくり 真実の光が 銀をつくる

嘘の色が 言葉を彩り 真実の色が 沈黙を彩る

 

鳥になれなかった花のために

なにを贈ろうか

 

花たちは祈るように咲き誇り

人々は競って愛し合う

 

だが 花たちの祈りは真実だろうか

だが 人々の愛は真実だろうか

 

見えるものの嘘に気づけ

見えないものの真実を探せ

 


風遊戯56●花のように わたしの心よ

 

花のように わたしの心よ

色を浮かべ 青き空に染まれ

香を放ちて 風とともに遊べ

 

風のように わたしの心よ

透きとおった手で 空の淀みを解け

その自在な言葉で 星の秘密を語れ

 

星のように  わたしの心よ

輝くその瞳で 夜の国を照らせ

季節の花とともに 時のめぐりを歌え

 


風遊戯57●春の魔術

 

小川に踏み入れた足を

やわらかくすりぬけてゆく水の冷たさ

草はらに寝そべったときのその匂いとやわらかい感触

空をゆく雲にあわせた心の動き

そんなみんながふと夜の静寂のなかで浮かび上がる

 

わたしはあの空の青から生まれたのか

それとも樹液の滴りから生まれたのか

水の音が永遠の声で語りかけ

花の色が刹那の彩りで踊るのはなぜ

 

夜がかつての春の景色を幻灯のように映し出す

わたしはあの春、たしかにあそこにいて

この夜にたしかにここにいる

そして時間と空間の魔術がわたしを心地よく迷わせる

 

 


風遊戯58●こみあげてくる歌のような

 

こみあげてくる歌のような思いの深みの

青の流れの鈴の響きの秘密の匂いのはてに

あなたのほんとうの姿をみたのは幻?

 

 かすかにきこえてくるのは

 あれはことばがまだことばでなかったころの

 そらのたてごとのようなねいろ

 

こみあげてくる歌のような言葉の糸の

色の流れの模様の波のひいてはかえす鼓動に

あなたのほんとうの熱を感じたのは幻?

 

 だれがことばをつくったの

 あなたのこえはことばなの

 うれしくかなしくあつくふるえて

 わたしのむねはこんなにあつい

 

こみあげてくる歌のような祈りのはての

夜の流れの渦のつくる秘密の文字の響きに

あなたのほんとうのいのちをきいたのは幻?

 

 わたしいのる

 そらにいのる

 あなたのことば

 ほんとうのことばで

 わたしがみちますように


風遊戯60●夢の下降と上昇

 

限りない遠点から射してくる夢は

下降しそして上昇し

紡がれた無限多次元空間の中に魂を宿す

 

夢の中に目覚めれば壁と迷路

壁の中に透明な青を塗り込めた空が広がり

果てしなく続く迷路が伸びる

その迷路を歩む者よ

無限遠点の夢を語れ

 

壁の向こうにいくつもの壁があり

またその中にも多次元の青を湛えた空が広がる

そして空を飛ぶ鳥の影が床に投射される

おまえはどこから射してくる光で

その影をつくるのか

無限遠点の夢はその姿を現わすか

 

確かな成長を始めた魂の子供は

夢の下降と上昇の統合の予感の前で佇む

 

 


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