風の竪琴

41-50

(1998.11.10-2000.9.13)

 

風の竪琴41●私という種

風の竪琴42●ふしぎ

風の竪琴43●道を語る人についての寓話

風の竪琴44●反対の一致についての一考察

風の竪琴45●狂騒曲

風の竪琴46●天地人の音楽

風の竪琴47●ひびきあひ

風の竪琴48●私という謎の前で

風の竪琴49●から=だ

風の竪琴50●明るみ

 

 

風の竪琴41

私という種


1999.11.10

 

風の竪琴41●私という種

 

それがいったいいつのことだったのか

すでにそれさえもわからない

私は永遠の花のなかにいたのだが

あるとき私はその花から去ろうと思った

一粒の種を選び育てようとしたのだ

私という種を

 

永遠から流れ出している川に沿って

私は歩き続けた

そうして

葉を広げ

水を飲みながら

光の衣を織り続けた

 

永遠の花のなかでは

それらすべてが私そのものだったのだが

ここではすべてが外からの恵みになる

その不思議に時の経つのを忘れるほどだった

というよりそこではじめて

時が流れるということを知った

 

けれどときには寒さに身をふるわせ

また川さえも干あがってしまい

渇きのなかで涙を流すこともしばしばだったのだが

それさえも私には魔術のように感じられた

私でないものに囲まれているという不思議のなかで

 

やがて私は永遠の花を忘れてしまっていた

私が一粒の種子であるということさえも

 

私はただ歩き歩き歩いていた

葉を広げ

水を飲みながら

なぜそうしているのかわからないままに

懸命に衣を織り続けた

光の衣とはもはやいえない衣を

けれどたしかに光の衣以外の何者でもないものを

そしてそれによってしか育てられないものを育てながら

 

私はやがて川をさかのぼっていくだろう

永遠への川を

あの水の味を思い出しながら

光の衣に包まれているという思いを深めながら

そうして私という花として

永遠のなかで咲くだろう

かつて永遠を去った者として

 

 

 

風の竪琴42

ふしぎ


1999.11.21

 

風の竪琴42●ふしぎ

 

ああ わたしがいる

ああ あおいくも

ああ おなかがすいた

 

どんなふしぎよりも

ずっとふしぎ

ふしぎのなかでいきてる

 

ああ あなたがいる

ああ いっしょにあるく

ああ いっしょにわらう

 

どんなたからものよりも

ずっとすてき

すてきのなかでいきてる

 

 

風の竪琴43

道を語る人についての寓話


2000.1.1

 

風の竪琴43●道を語る人についての寓話

 

ただみずからの道を歩め

そう語る者に

どこにも道なんかないじゃないか

と反論する者

おまえの前に道はない

おまえの後に道はできる

そう語る者

 

道を急いではならない

そう語る者に

いつになったら目的地に着くんだい

と苛立つ者

道を見出せないで

どの道を急ぐというのだ

そう問い返す者

 

道を歩むのではないのだ

そう語る者に

ではどこを歩めばいいというのか

そう毒づく者

おまえが道になることでしか

道は歩み得ないのだ

そう微笑む者

 

 

風の竪琴44

反対の一致についての一考察


2000.2.23

 

風の竪琴44●反対の一致についての一考察

 

好きだから

嫌いといってしまう

あまのじゃくじゃなくて

好きと嫌いは

おなじだからなんだと思う

男の子と女の子が

よく遊ぶ遊びでもあるけど

 

女だからという

男だからという

女でないと男で

男でないと女なのかな

女と男

どちらも

人間なのにね

女でしかないとか

男でしかないというのは

一種の人間もどきなのかもしれない

 

賛成の反対は

反対なのかな

賛成と反対

どちらも

おなじかもしれない

どちらかにしようとする遊びは

けっこう疲れるね

唾を散らしながら毒づいたり

宴の後の空しさを味わいたいのだろうか

 

善を求め

悪を排する

でも悪を排すれば排するほど

善はまるで悪の顔してくるね

独善という言葉もあるけど

自分だけ善でどうしようというんだろう

鏡を見ながら

世界でいちばん善い人はだあれとか

自問自答しているのだろうか

 

 

風の竪琴45

狂騒曲


2000.2.29

 

風の竪琴45●狂騒曲

 

蜃気楼の私が見えてくる隠れてゆく

私はイデアの言葉それとも肉となった言葉

けれど言葉をなくした栗鼠

マーヤの樹海をはるか駆け回る

 

それははるか昔いやはるか行く末

それとも今ただ今の物語

綴られた言葉の織物が

風化しかけた壺のなかで

今も鮮やかな虹色の光彩を放つ

 

あなただった私への恋

狂乱の恋または秘められた想いの果て

欲望という形でしか奏でられない

私が私であるための狂騒曲

 

繭から糸が紡がれるように

卵の私が糸となって延びてゆき

紡がれ纏われ舞われて

そうしてあなたのもとで駆け回る

 

砂が流れてゆく

地平線の向こうに浮かぶ私の蜃気楼

マーヤのシネマに映し出された

無数の表象と言葉の記録の奔流

 

それは私一人だけのそしてあなたの

数え切れないほどの物語

悲しく切なく狂おしい

私を恋する私の物語

 

 

風の竪琴46●

天地人の音楽


2000.4.3

 

 

風の竪琴46●天地人の音楽

 

やっと演奏以外のものがでてきたぞ!

指揮者は涙を絞り叫ぶ

 

私は聴く

生きている私は聴く

けれど聴くのは

演奏であり演奏ではない

耳ではない

 

生きている私が

血を流しながら聴く

血の言葉となって聴く

 

人が奏でる音楽は天の再現ではない

地にあって血の言葉にならなければならない

天の竪琴は地から血から湧出しなければならない

 

やっと天以外のものがでてきたぞ!

天の指揮者は涙を絞り叫ぶ

 

 

 

風の竪琴47

ひびきあひ


2000.4.5

 

風の竪琴47●ひびきあひ

 

あなたの

ひびき

かたち

わたしの

なかへ

そそぎこむ

 

ふるふるふるふる

ふるへているのは

うたつているのは

わたしのなかのあなた

それともあなたのなかのわたし

 

うつの

なかで

はじけて

そだつ

ことのはの

ゆめの

おりもの

 

わたしは

いつたい

だれの

ゆめ

あなた

それとも

ただの

さざなみ

 

ひびきは

ひろがり

つむがれ

そうして

まぼろしの

まるでうるわしの

てふてふ

 

てふてふてふてふ

その

ひとひらごとの

そよぎが

やがて

うつつの

かたちとなり

わたし/あなたといふ

ゆめ/うつつの

ことのはとなり

あなた/わたしのなかで

ひびきあふ

 

 

風の竪琴48

私という謎の前で


2000.4.26

 

風の竪琴48●私という謎の前で

 

世界は美しい

でさえも

人ゆえにこそ

 

世界は美しい

かの少女は髪を揺らし

かの爺は歯のない口で笑う

世界の内で

知らぬ内に世界の外で

 

世界は美しい

人は殺し殺され

愛し愛され

悲しみ喜ぶ

私ゆえに

私なきがゆえに

 

「私は、

私ならずして、

私である」

世界の虚を

私の虚に掛け合わせ

私は笑う

私は泣く

 

世界は美しい

私という謎の前で

 

 

風の竪琴49

から=だ


2000.9.13

 

 

風の竪琴49●から=だ

 

 

なにもしない とき

なにもしない ところで

なにもしない なにかが

不意に おとずれる

 

そのふしぎに

あかるく 静かな

喜びにも似た

笑みが

 

わたしの

なにもしない 鐘に

音のない 響きを

渡らせる

 

 

風の竪琴50

明るみ


2000.9.13

 

 

風の竪琴50●明るみ

 

 

それ は

遠く から

わたし へ

 

けれど

わたし の

内 から

遠く へ

 

一瞬の

永遠を

響かせ

 

はるか

わたし へ

わたし から

おとずれる

不思議の

明るみ

 


 

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