もしぼくがここに生まれていなかったとしたら
きみとこうして話すことはできなかっただろう
ぼくの声ときみの声が奏でる
今だけの、そして永遠の旋律も生まれなかっただろう
でもぼくがきみの前にいないということは
ありえないことなのだと思える
ぼくはいまここにこうしていて
きみと空を鳥を感じている
ソフィアのために
ぼくときみのソフィアのために
心の被いを取り去ろう
どんなにこの地が揺れようと
もしぼくが力なく道を歩き
血を流しなすすべもないとしても
ぼくはいまここにいて
きみのことを考えている
きみがいまぼくの前にいないとしても
きみはいつもぼくのそばにいる
ぼくはいまここで歌いながら
きみと今だけの、そして永遠の物語を演じている
ソフィアのために
ぼくときみのソフィアのために
天の調べはかぎりなく
ぼくときみの扉は開かれる
ほら、夢の絵が蝶の羽に描かれているよ
ああ、心の幾何学模様も空に印されているね
自然の秘密を見るためには
ぼくたちの内なるポエジーが必要なのだ
今ではもうだれもそれに気づこうともしないがね
ほら、星空をほの青く輝きながら駆けるものがあるよ
ああ、あれはかつてぼくたちだったものの光
星と星の結び目を開いて次元間通信をしているのさ
だからこうして、ぼくたちにメッセージが届く
みんなかつて星と星のあいだを駆けまわっていたのさ
けれどこうして地上に生まれてきてしまうと
そのことをみんな忘れてしまう
メッセージを見てもだれもそれを読むことができない
それは自分で自分に送ったポエジーなのに
ほんとうはね、もう一人の自分は
いまもまだあの星と星の間にいるんだよ
次元と次元のあいだを自由に遊びながら
いつもぼくたちにメッセージを送っているんだ
ぼくたちは音楽を耳でしか聴けなくなっているように
あの星の光をただの光だとしか見えなくなっている
かつて人は星空を見て天球の音楽を聴いてたんだ
ほら、こうして耳をすませてごらん
ああ、ぼくのなかのもう一人のぼくが聴いているんだね
そうさ、ぼくはいまももう一人のぼくでもあるんだから!
ぼくはノーバディ
だれでもないただの人
だれでもないことで
自由を旅するノーバディ
ぼくはエブリバディ
あらゆる人であり
あらゆる人であることで
自由を旅するエブリバディ
ぼくは今日芸術家だった
でもぼくは芸術家じゃない
そしてぼくはいつも芸術家だ
ぼくは今日子どもだった
でもぼくは子どもじゃない
そしてぼくはいつも子どもだ
ぼくは今日怒る人だった
でもぼくは怒る人じゃない
そしてぼくはいつも怒る人だ
ぼくは今日悲しむ人だった
でもぼくは悲しむ人じゃない
そしてぼくはいつも悲しむ人だ
ぼくはノーバディ
だれかであることで
自分を檻に閉じこめはしない
ぼくはエブリボディ
あらゆる人であることで
自分をノーバディにする
Nobody knows
Everybody knows
ぼくはぼくで檻の中のぼくじゃない
胡桃の殻の中に閉じこめられても
ぼくは無限の天地の主となる
ぼくはノーバディ
ぼくはエブリボディ
そして
ぼくはいつもぼく
ぼくが崩れていく夏の日
熱化した空は回転を続け
次元は静かにねじれていった
太陽は熱く
雨は黒く
大地は揺れる
ぼくはぼくだった
そしてぼくのなかで
ぼくが声にさえならない叫びをあげる
心の鏡が割れていく
無数の破片に映った空のなかを
どこにも咲かないはずの花たちが風にゆれている
夥しい架空の記憶の物語
ぼくのぼくたちの
無数の書物がどこにもない場所で風化する
その果てに響くという音楽はどこからきて
どこに行こうとしているのだろう
そしてぼくの叫びはだれが聴くというのか
ぼくの鏡が水面のように
鳥の飛翔に波打っている
おまえはどこに帰っていこうというのか
真夜中の太陽が
ぼくの底から浮上してくる
はてしない次元の底から
夜が明ける
ぼくの夜明けの晩に
後ろの正面がふりかえる
いないいないばあ
わたしという井戸の底から
突如として現れる
わたしの虚の顔
べろべろばあ
虚の顔から
べろりと舌が伸び
わたしを飴のようになめ尽くし
やがてわたしは虚と同化する
そして鏡のなかに住むようになる
わたしが反転したところに住む虚の存在
わたしは鏡のなかを泳ぎ
鏡の前に立つもうひとりのわたしにむかう
鏡のまえに立つわたしを待ち伏せ
唐突にシニカルに笑って見せるわたし
いないいないばあ
わたしという鏡の底から
突如として現れる
わたしの虚の顔
べろべろばあ
鏡のなかの虚の顔から
べろりと舌が伸び
もうひとりのわたしを
飴のようになめ尽くす
やがて虚のわたしは
もうひとりのわたしと同化する
いないいないばあ
合わせ鏡のなかで
わたしはかぎりなく増殖する
虚と実のあわいで
わたしは自分の
ほんとうの顔を探している
どれほど集めても集めても
集められ腐敗を待つだけの
そんな言葉や音の群れたち
そしてそれをあたりまえのように
享受するだけの生活
悲しみは悲しみのままに
喜びでさえ喜びのままに
人は人に愛着しあたりまえのように育て
そして苦悶のうちにそれとも無造作に傷つけ殺す
富や権力や名声やそんなみんなが
したり顔をして直線運動し
一点の崩壊への大移動を続ける
あるとき
リアリティが崩れていく
人は語れず奏でられなくなる
語れば語るほど
奏でれば奏でるほどに
吐き出されるすべてが
嫌悪のなかで虚へと運び去られる
すべてが内から崩れはじめ
無意味ということさえ無意味になる
だがそのなかでしか
見つけられないほんとうがある
たったひとつの言葉が
ひとつの音が
ほんとうになり
わたしのなかで育ち始める
そんな言葉や音がある
時空が変容し
そこに「永遠に人間的なもの」が現れる
女性的なものは女性的なもののままでなく
男性的なものも男性的なもののままでなく
悲しみも喜びも富や権力や名声も
そんなみんなが不思議な螺旋のなかで
「永遠に人間的なもの」へと変容する
そんなたったひとつの言葉を
ひとつの音を見つけるために
変容を告げる驚きの訪れるために
私のなかで
「永遠に人間的なもの」が産声をあげる
空の深みで響く鈴の音
クレーの天使が
奏でているかのような
あれはすべての生を讃えるコラールか
響きをはるか垂直に遡った湖に
永遠の声が湛えられ
そこから流れ出した声たちが
さまざまに岐れ集まりコラールを響かせる
悲しいことに近頃ではすっかり
模造された音ばかりが出まわり
あの声たちの響きは
まれにしか聴かれなくなったのだが
さあ 永遠の声を聴く耳たちよ
空の深みであまねく響くコラールを
みずからのなかで交響させ
永遠の声へと変容せよ!
きれいなものはきれい
と言うこと
それはとても簡単なこと
けれどほんとうにそう言えるためには
きれいに見えないもののなかに
きれいなものを見つけなければならない
そうしてそのなかに自分を見つけること
きれいはきたない
きたないはきれい
そんな言葉があって
私はその言葉のまわりをまわりながら
鏡の前に立つ
きれいなものはきれい
と言うこと
それはとても難しいこと
ほんとうにそう言えるためには
自分がきれいに見えなければいけないから
けれどそのきれいに見えない自分のなかに
きれいなものを見つけなければならない
きれいはきたない
きたないはきれい
無数のそんな言葉のなかで
きれいなものはきれい
臆病にそうつぶやいてみる
まっすぐに
見ることのできる
目がほしい
長く
曲がりくねった
道も
しっかり
見ることのできる
目が
まっすぐに
見ることのできない
言い訳を
見つける
技術は
いらない
まっすぐに
見ることのできる
目で
あなたを見つめたい
そうして
わたしは
あなたのなかに
秘められた
わたしの
鍵を
見つけたい
まっすぐに
見ることのできる
目になって
閉ざされていた
扉の
向こうを
見つめたい
ひとつ
だけど
ちがう
わくわく
ちがう
だけど
ひとつ
うれしい
あなた
だけど
わたし
どきどき
わたし
だけど
あなた
だいすき
あした
だけど
きのう
なぞなぞ
きのう
だけど
あした
ゆめみる