風の竪琴

31-40

(1998.7.10-1999.10.27)

 

風の竪琴31●ソフィアのために

風の竪琴32●開示

風の竪琴33●ノーバディ

風の竪琴34●夜明けの夢

風の竪琴35●いないいないばあ

風の竪琴36●「永遠に人間的なもの」へ

風の竪琴37●空の深みで

風の竪琴38●きれい

風の竪琴39●まっすぐ

風の竪琴40●ふしぎ

 

 

 

風の竪琴31

ソフィアのために


1999.7.10

 

もしぼくがここに生まれていなかったとしたら

きみとこうして話すことはできなかっただろう

ぼくの声ときみの声が奏でる

今だけの、そして永遠の旋律も生まれなかっただろう

 

でもぼくがきみの前にいないということは

ありえないことなのだと思える

ぼくはいまここにこうしていて

きみと空を鳥を感じている

 

ソフィアのために

ぼくときみのソフィアのために

心の被いを取り去ろう

どんなにこの地が揺れようと

 

もしぼくが力なく道を歩き

血を流しなすすべもないとしても

ぼくはいまここにいて

きみのことを考えている

 

きみがいまぼくの前にいないとしても

きみはいつもぼくのそばにいる

ぼくはいまここで歌いながら

きみと今だけの、そして永遠の物語を演じている

 

ソフィアのために

ぼくときみのソフィアのために

天の調べはかぎりなく

ぼくときみの扉は開かれる

 

 

 

風の竪琴32

開示


1999.7.11

 

ほら、夢の絵が蝶の羽に描かれているよ

ああ、心の幾何学模様も空に印されているね

 

自然の秘密を見るためには

ぼくたちの内なるポエジーが必要なのだ

今ではもうだれもそれに気づこうともしないがね

 

ほら、星空をほの青く輝きながら駆けるものがあるよ

ああ、あれはかつてぼくたちだったものの光

星と星の結び目を開いて次元間通信をしているのさ

だからこうして、ぼくたちにメッセージが届く

 

みんなかつて星と星のあいだを駆けまわっていたのさ

けれどこうして地上に生まれてきてしまうと

そのことをみんな忘れてしまう

メッセージを見てもだれもそれを読むことができない

それは自分で自分に送ったポエジーなのに

 

ほんとうはね、もう一人の自分は

いまもまだあの星と星の間にいるんだよ

次元と次元のあいだを自由に遊びながら

いつもぼくたちにメッセージを送っているんだ

 

ぼくたちは音楽を耳でしか聴けなくなっているように

あの星の光をただの光だとしか見えなくなっている

かつて人は星空を見て天球の音楽を聴いてたんだ

 

ほら、こうして耳をすませてごらん

ああ、ぼくのなかのもう一人のぼくが聴いているんだね

 

そうさ、ぼくはいまももう一人のぼくでもあるんだから!

 

 

 

風の竪琴33

ノーバディ


1999.7.30

 

 

ぼくはノーバディ

だれでもないただの人

だれでもないことで

自由を旅するノーバディ

 

ぼくはエブリバディ

あらゆる人であり

あらゆる人であることで

自由を旅するエブリバディ

 

ぼくは今日芸術家だった

でもぼくは芸術家じゃない

そしてぼくはいつも芸術家だ

ぼくは今日子どもだった

でもぼくは子どもじゃない

そしてぼくはいつも子どもだ

 

ぼくは今日怒る人だった

でもぼくは怒る人じゃない

そしてぼくはいつも怒る人だ

ぼくは今日悲しむ人だった

でもぼくは悲しむ人じゃない

そしてぼくはいつも悲しむ人だ

 

ぼくはノーバディ

だれかであることで

自分を檻に閉じこめはしない

ぼくはエブリボディ

あらゆる人であることで

自分をノーバディにする

 

Nobody knows

Everybody knows

ぼくはぼくで檻の中のぼくじゃない

胡桃の殻の中に閉じこめられても

ぼくは無限の天地の主となる

 

ぼくはノーバディ

ぼくはエブリボディ

そして

ぼくはいつもぼく

 

 

 

風の竪琴34

夜明けの夢


1999.8.11

 

ぼくが崩れていく夏の日

熱化した空は回転を続け

次元は静かにねじれていった

 

太陽は熱く

雨は黒く

大地は揺れる

 

ぼくはぼくだった

そしてぼくのなかで

ぼくが声にさえならない叫びをあげる

 

心の鏡が割れていく

無数の破片に映った空のなかを

どこにも咲かないはずの花たちが風にゆれている

 

夥しい架空の記憶の物語

ぼくのぼくたちの

無数の書物がどこにもない場所で風化する

 

その果てに響くという音楽はどこからきて

どこに行こうとしているのだろう

そしてぼくの叫びはだれが聴くというのか

 

ぼくの鏡が水面のように

鳥の飛翔に波打っている

おまえはどこに帰っていこうというのか

 

真夜中の太陽が

ぼくの底から浮上してくる

はてしない次元の底から

 

夜が明ける

ぼくの夜明けの晩に

後ろの正面がふりかえる

 

 

 

風の竪琴35

いないいないばあ


1999.9.8

 

いないいないばあ

わたしという井戸の底から

突如として現れる

わたしの虚の顔

 

べろべろばあ

虚の顔から

べろりと舌が伸び

わたしを飴のようになめ尽くし

やがてわたしは虚と同化する

そして鏡のなかに住むようになる

わたしが反転したところに住む虚の存在

 

わたしは鏡のなかを泳ぎ

鏡の前に立つもうひとりのわたしにむかう

鏡のまえに立つわたしを待ち伏せ

唐突にシニカルに笑って見せるわたし

 

いないいないばあ

わたしという鏡の底から

突如として現れる

わたしの虚の顔

 

べろべろばあ

鏡のなかの虚の顔から

べろりと舌が伸び

もうひとりのわたしを

飴のようになめ尽くす

やがて虚のわたしは

もうひとりのわたしと同化する

 

いないいないばあ

合わせ鏡のなかで

わたしはかぎりなく増殖する

虚と実のあわいで

わたしは自分の

ほんとうの顔を探している

 

 

 

風の竪琴36

「永遠に人間的なもの」へ


1999.9.21

 

どれほど集めても集めても

集められ腐敗を待つだけの

そんな言葉や音の群れたち

そしてそれをあたりまえのように

享受するだけの生活

 

悲しみは悲しみのままに

喜びでさえ喜びのままに

人は人に愛着しあたりまえのように育て

そして苦悶のうちにそれとも無造作に傷つけ殺す

富や権力や名声やそんなみんなが

したり顔をして直線運動し

一点の崩壊への大移動を続ける

 

あるとき

リアリティが崩れていく

人は語れず奏でられなくなる

語れば語るほど

奏でれば奏でるほどに

吐き出されるすべてが

嫌悪のなかで虚へと運び去られる

 

すべてが内から崩れはじめ

無意味ということさえ無意味になる

だがそのなかでしか

見つけられないほんとうがある

 

たったひとつの言葉が

ひとつの音が

ほんとうになり

わたしのなかで育ち始める

そんな言葉や音がある

時空が変容し

そこに「永遠に人間的なもの」が現れる

 

女性的なものは女性的なもののままでなく

男性的なものも男性的なもののままでなく

悲しみも喜びも富や権力や名声も

そんなみんなが不思議な螺旋のなかで

「永遠に人間的なもの」へと変容する

 

そんなたったひとつの言葉を

ひとつの音を見つけるために

変容を告げる驚きの訪れるために

私のなかで

「永遠に人間的なもの」が産声をあげる

 

 

 

風の竪琴37

空の深みで


1999.10.6

 

 

空の深みで響く鈴の音

クレーの天使が

奏でているかのような

あれはすべての生を讃えるコラールか

 

響きをはるか垂直に遡った湖に

永遠の声が湛えられ

そこから流れ出した声たちが

さまざまに岐れ集まりコラールを響かせる

 

悲しいことに近頃ではすっかり

模造された音ばかりが出まわり

あの声たちの響きは

まれにしか聴かれなくなったのだが

 

さあ 永遠の声を聴く耳たちよ

空の深みであまねく響くコラールを

みずからのなかで交響させ

永遠の声へと変容せよ!

 

 

 

風の竪琴38

きれい


1999.10.25

 

きれいなものはきれい

と言うこと

それはとても簡単なこと

 

けれどほんとうにそう言えるためには

きれいに見えないもののなかに

きれいなものを見つけなければならない

そうしてそのなかに自分を見つけること

 

きれいはきたない

きたないはきれい

そんな言葉があって

私はその言葉のまわりをまわりながら

鏡の前に立つ

 

きれいなものはきれい

と言うこと

それはとても難しいこと

 

ほんとうにそう言えるためには

自分がきれいに見えなければいけないから

けれどそのきれいに見えない自分のなかに

きれいなものを見つけなければならない

 

きれいはきたない

きたないはきれい

無数のそんな言葉のなかで

きれいなものはきれい

臆病にそうつぶやいてみる

 

 

 

風の竪琴39

まっすぐ


1999.10.27

  

まっすぐに

見ることのできる

目がほしい

 

長く

曲がりくねった

道も

しっかり

見ることのできる

目が

 

まっすぐに

見ることのできない

言い訳を

見つける

技術は

いらない

 

まっすぐに

見ることのできる

目で

あなたを見つめたい

 

そうして

わたしは

あなたのなかに

秘められた

わたしの

鍵を

見つけたい

 

まっすぐに

見ることのできる

目になって

閉ざされていた

扉の

向こうを

見つめたい

 

 

 

風の竪琴40

ふしぎ


1999.10.27

 

 

ひとつ

だけど

ちがう

わくわく

 

ちがう

だけど

ひとつ

うれしい

 

あなた

だけど

わたし

どきどき

 

わたし

だけど

あなた

だいすき

 

あした

だけど

きのう

なぞなぞ

 

きのう

だけど

あした

ゆめみる

 


 

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