風の竪琴11-20

(1998.2.3-1998.9.11)


風の竪琴12●彼方から

風の竪琴13●通りゃんせ

風の竪琴14●はだかのこども1

風の竪琴15●はだかのこども2

風の竪琴16●勇気

風の竪琴17●青い花

風の竪琴18●ことばことばことば

風の竪琴19●夜明け前双つ

風の竪琴20●歌


 

風の竪琴●唄−−ほんとかうその

(1998.2.3)

 

胸に穴のあいた午後

ひとさしゆびのむこうで

だれかが呼んでいるのに気づく

おおいほほほいおほい

 

ほんのわずかなことばのほんとが

ひとさしゆびにからまって

そうしてしずかにしずかに旋回している午後

私は猫のようなあくびをひとつして

かたちにならない思いを胸の穴にほうりこむ

 

そのかすかなかすかな痛みから

遠い記憶が染みのように拡がる

そのはるかな悔恨を耕して

やがて私はささやかな作物を収穫することだろう

私という存在の孤独と自由という作物を

 

ときには嘘がほんとのような顔をして歩き

ほんとのことばをまるで嘘のように使って挨拶をする

ときには寂しさがうれしい笛のように響き

スキップを踏みながらひとりの街にこだまする

そんな午後

 

私は私という謎をまるごと抱えて

街や空や海や山をめぐるのだ

叫びにならない

ほんとかうそかもわからない

ことばの痛みで書いた秘密を

胸の穴から悲しく垂らしながら

 

胸に穴のあいた午後

ひとさしゆびのむこうで

だれかが呼んでいるのに気づく

おおいほほほいおほい

 

私はふりむいて

大きく手をふる

私という謎のむこうで

笑っている者に向かって

私は自由なのかと問いかけながら

 


 

風の竪琴●彼方から

(1998.2.22)

 

きこえない声の彼方から

わたしを呼ぶ声

 

あなたはだれ

もうひとりの私

それとも

 

みえない空間の彼方から

わたしに現われる者

 

あなたはだれ

もうひとりの私

それとも

 

わたしはいまここにいて

わたしという謎のまえで

合わせ鏡の前に立つ

 

声が反転しまた反転する

色が反転しまた反転する

虚が実になり実が虚になる

 

わたしとあなたの物語が

鏡のなかで迷路に踏み込んでゆく

わたしはあなただった?

それともあなたはわたしだった?

 

この部屋で空で川で

樹になり花になり

そこがここになり

わたしがあなたになる場所で

語り始めよう

わたしという物語を

あらゆるあなたであり

声であり色であるあなたを

なぜという問いを限りなく反転させながら

 


 

風の竪琴●通りゃんせ

(1998.3.24)

 

ここはどこの細道じゃ

行きはよいよい帰りは恐いは必定

ぼくの心臓はドラムのようにうなり声をあげ

置き去りにした感情が闇の姿でぼくに襲いかかる

 

ビートのきいた辛めのパンチ

かわいさ余って憎さ百倍というカウンター

一人芝居とはいえ

一人芝居だからこそ痛さがいや増す

 

ぼくがぼくであること

汝の名を記憶という

こうなりゃ忘れていたもののくさぐさとりまぜ

ほじくり返し丸めて団子にして食っちまおうか

食うほどに涙あふれ喜劇化していく記憶の団子効果

 

ちょっと通してくだしゃんせ

記憶のないもの通しゃせぬ

思い出します思い出す

ああ果てしなき後悔と懺悔の応酬

それもやがては遊戯と化すか

ぼくがぼくである感情のエンターテインメント

芝居とはいえ劇的効果抜群

涙あり笑いありの一大絵巻

 

細道小道どこの道

ぼくの前に道はない

ぼくの後ろに道はできる

ああこの道はどこへ行く道

ああそうだよそうだ

通りゃんせ通りゃんせ

細道はてくてく歩いてきた道

これからつくるでこぼこ道

ひとさまの道ではありゃあせぬ

 

迷路をゆくぼくの細道

時間空間宇宙進化ひっくるめ

ぼくこそが道

闇も光もすべて道

ロングアンドワインディングロード

通りゃんせ通りゃんせ

 


 

風の竪琴●はだかのこども1

(1998.3.29)

 

かかさま おらぬ

はだかの こども

ひもじく さむい

 

ととさま おらぬ

まいごの こども

どこへも ゆけぬ

 

どこから きたの

どっちへ いくの

わすれて とおい

 

かかさま おらぬ

ととさま おらぬ

ひとりで くらす

 

はだかの こども

まいごの こども

ひとりで いきる


 

風の竪琴●はだかのこども2

(1998.3.29)

 

かかさま こわい

かわいさ あまり

こどもを たべる

 

ととさま しらぬ

あなたは だあれ

それとも おかね

 

どこから きたの

どっちへ いくの

わすれて とおい

 

かかさま こわい

ととさま しらぬ

こころの はだか

 

おびえる こども

まいごの こども

ひとりで いきる

 


 

風の竪琴●勇気

(1998.3.31)

 

勇気はどこからくるのだろう

それはどこかはるか未来からくるような気がする

まださわれないもの

まだ見えないもの

まだ聞こえないもの

そんな彼方からぼくにむかってやってくる

けれどぼくが過去を向いているとき

それには気づけない

後ろをむいたぼくは

記憶をさかのぼる旅にでて勇気を探そうとするのだけれど

そこには絵に描かれた勇気の化石らしきものしか見つからない

 

記憶の深海に流れる旋律や色彩の河には

ぼくという存在の記録がすべて記され

ひとりぼっちでさびしく歩いていたことも

雨の中を恋人と笑いながら駆け回ったことも

戦場で人を殺し続けたことも

人を救うために命をなげうったことも

そんなみんなが河になって流れているという

 

ほんのひとにぎりの勇気をください

まだ見えないものを見る勇気を

まだないものをつくりだす勇気を

そうすればぼくは過去を超えて

未来というぼくにむかって歩き出そう

そしてぼくはぼくになるという運動になって

過去という化石を燃料に

ぼくという未知の宇宙をつくる旅をはじめよう

 

だけど勇気はだれからももらえない

だからぼくははるかな無にむかって

じぶんを投げ出してみる

どこかはるかな未来はない

あるのはぼくの無だけなのだから

ぼくはぼくの無にむかってゆく

そしてないものがそこにあらわれてくるのを見つける

 


 

風の竪琴●青い花

(1998.4.30)

 

青い花を買った

 

細くて長い口の

磨りガラスの瓶に生け

あかず日がな眺めていた

 

かの人も

それを見ているような

そんな気がしていると

 

 青はいったい

 どこからやってくるのか

 知ってるかい

 

光を透かした花びらの青が

やがてその色を形に変え

秘密の文字で語りかけてきた

 

 遠い星が

 青い力になって働くのだ

 そうしてできた青が

 今こうして君のもとで

 星の言葉で語っているのだよ

 

やがて私も青い文字になり

不思議なダンスを始め

かの人と手をとりあって

ともに花となって舞った

 


 

風の竪琴●ことばことばことば

(1998.4.30)

 

これほどたくさんのことば

しかしとどかないことば

わたしはあなたに語りかける

といいながら何を語りかけたというのだ

ことばことばことば

物質化されたことばがあふれだしてくる

ことばが塊で売られていく

 

インフレーションすることばのなかで

溺れ死んでしまった者たちへのレクイエム

レクイエムのことばさえ秤売りされ

だれも聞くことのないそれら死にきれない魂が

行き場を失い夥しく行き場を失い

人々に憑依し言葉を吐き出させる

 

それでも語られる言葉

それはあなたの声なのか

まるで聞き分けられない声の群

あなたの声はあなたの声でないことを望んでいるかのよう

それではあなたの声はいったいどこに

忘れ去られた声の墓場か

 

だれも自分の言葉がわからない

声さえも自分のものではない

コピーされコピーされコピーされ

なんどもなんどもなんどもリフレインされ

やがて鏡を見てもそれはあなたの顔ではなくなる

その顔はコピーされたあなたの影

あなたの顔はどこに隠れてしまったのか

心臓はこんなに不安に怯えているというのに

どきどきすることにさえ怯えているというのに

 

沈黙してはどうだ

ひたすら沈黙してはどうだ

ことばが沈黙のなかから受精し

やがて花が咲くほどの間

歌を忘れてはどうか

ひたすらあらゆる歌をわすれてはどうだ

文字を忘れてはどうだ

絵と文字の差さえわからなくなるほどに

そのシンボルがやがて生きて動くまでの間

 

今ことばは十字架の上で死に絶える

復活のときを待ちながら

 


 

風の竪琴●夜明け前双つ

(1998.7.15)

 

夜更け

いやもう夜明け前か

かすれた口笛のように風が鳴り響き

いつかあなたに会える

そう告げる

けれどあなたはいったいだれ

 

空はどんよりとぬめり

融けでてくるように雫と化し

地はどろどろぬかり

私はただ歩いている

限りなき無彩色の世界を

行方を見定めることなく

見定められずに

 

火照る胸

そこにぽっかりと空いた

空洞にただ風が流れ

私はただ歩き続けている

あなたに会うために

私が殺めてきたあなたに会うために

そしてあなたによって殺されるために

 

悪!

それは私が私であること

私が私であるという悲しい歌のこと

この手が殺めこの口が食らってきた

あまたのいのちたち

そしてその叫び

それが熱き心のほてりとなり

やがてマグマとなって噴き出してくる

それが私なのだ

 

私は私が殺めたすべて

私は私でないもののすべて

その矛盾のなかを私はただ歩いている

あなたも私を殺すだろう

いや殺さねばならぬ

あなたも私になるために

私というめぐりになるために

 

私の心の火照りは

あなたを求めて静かに鼓動する

歌!

あなたという私の非在に向かって

私でないすべてに向かって

私は歌う

あなたに

失われたすべての私に

そしてやがて私になるあなたに

 

初め

私はあなたであった

あなたは私であった

そして私はあなたでなくなった

あなたは私でなくなった

光と闇のように

それとも闇と光のように

 

私という謎のような泥濘のような自己意識

はるかな彷徨はあなたを求める旅

私はあなたを求めあなたを殺め続けることで

あなたになろうとしたのだ

やがて私はあなたになり

あなたは私になる

 

夜明け前

かすれた口笛のような風のなかを

あなたを呼ばわる歌がある

あなたに会わねばならない

私という謎に会うためにこそ

失われたもの

ほんとうは失われたことなどなかったもの

すべては今ここにあるはずのものを見つけるために

薄明のなかを泥濘のなかを歩いている私がいる

 

〜舟沢虫雄「 夜明け前双つ」からのイマジネーション

 


 

風の竪琴●歌

(1998.9.11)

 

歌になる夢をみた

 

すべてが歌から生まれ

歌が歌を生み育てる

そんな世界の夢を

 

わたしの声

そしてあなたの声

奏であい響きあい紡ぎあい

わたしでありあなたでありながら

わたしでもあなたでもない

千変万化の不思議

歌世界の万華鏡を創りだす

 

私が歓喜する

すると喜びは果てしない奔流となって

あなたをどこまでも染めながら

その響きを伝えてゆく

 

私が悲しむ

すると悲しみは幾千幾万の渦巻きとなり

あなたの奥底にある悲しみの河をも巻き込みながら

悲しみの絵模様を描いてゆく

 

だれが最初に歌ったのだろう

世界のすべてである歌を

 

だれが歌を忘れたのだろう

忘れ果ててしまったのだろう

すべてが歌である世界の歌を

 

思い出さなければならない

あなたは歌そのものだということを

 

けれどなぜ忘れなければならなかったのか

そのことも思いださなければならない

 

歌が歌でしかなかったとき

あなたは自分が歌であることを知らなかった

 

歌が忘れ去られた世界でこそ

あなたは自分が歌そのものであることに気づくことができる

 

そう

あなたは歌

歌そのもの

それに気づくこと

それだけで歌は甦る

 


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