風の竪琴1-10


(1997/8/8-1997/12/18)

 

風の竪琴1●冒険へ

風の竪琴2●いま ここ で

風の竪琴3●どこ へ

風の竪琴4●私という物語

風の竪琴5●神秘学鏡遊戯

風の竪琴6●言葉

風の竪琴7●ハレルヤ

風の竪琴8●冬の夢幻スケッチ

風の竪琴9●歌

風の竪琴10●迷宮譚

 

 

風の竪琴1●冒険へ


(1997/8/8)

 

私はどこに向かって歩いているのだろう

生という樹海のなかで迷い続け

こうして数限りない思いをかかえながら

 

人はだれも死へと向かっているのだ

そう言う者もいるのだが

多くの場合それは何も言わないためのレトリックにすぎない

 

死の向こうにあるもののことが問題だ

うすっぺらなペシミズムをも歩む勇気は必要だが

それもひとつの風景であることを知らねばならない

 

さあ生を死をも包み込んだ遥かなうねりを航海し

どこまでもシンドバッドのような冒険を重ねながら

目指すべきあの地のことを語ろうか

 

とはいえ

その地は大いなるパラドックスそのものだ

そう語る錬金術師がいたのを知っているだろうか

クレタ人は嘘つきであると語るクレタ人のようなものだ

そう言い放って笑っていたあの錬金術師のことだ

いや錬金術師というのも彼一流の洒落にすぎないのだが

 

私の向かっているのは私だというパラドックス

そして私はあなたでありあなたは私であり

此の地は彼の地であり未来は今であり永遠であるという

よく聞き慣れたフレーズ

しかしいまだよくわからないパラドックスが

彼の得意とする議論だということだが

それではいったい私の冒険はどうなってしまうのだろうか

この日常を非日常へと飛翔させる何かを

私は求めているのだがどうもそれこそがパラドックスらしい

そう気づきはしたのだが

はてはてさてさて・・・

 

こうして私はどこかに向かいながら

いつも今ここにいるための冒険について考え始めた

自分が何かをした気になるということはとても危険なことだ

実のところ何かをするということが問題なのではない

冒険とはそのあり方をめぐるものに他ならないのだから

そして人は新しさを求めるのは得意だとしても

そのあり方を変えようとはしないのだというのも

あの自称錬金術師の言いそうなことだ

    

さあ冒険の旅へ

あらゆることが冒険でしかない旅へ

だれもその冒険の途上にあるのだが

多くがそれを冒険だとは思っていないような

そんな冒険を遊ぶとしようか

それこそが自由ということだと

彼なら言うのだろうが

 

 

 

風の竪琴2●いま ここ で


(1997/10/9)

 

いま ここ に いること

 

いま ここ の 深みのなかで

わたし は わたし に 出会える

 

いま ここ の ひろがりのなかで

わたし は あなた に 出会える

 

耳 を すませて いま ここ を 聴く

聴くことが わたし に なる

 

いま ここ の 器に 声を 載せて

わたしは わたしという歌を 捧げる

 

いま ここ の 器に あなた という 歌

それだけで わたし は 満ちてくる

 

 

風の竪琴3●どこ へ


(1997/10/9)

 

どこ へ 行くの

いま ここ に いないで

 

そこ は どこにも ない

その どこにもないところで

いったい なにをしようというの

 

そこ には 幻影の魔物がいて

あなた を 食べようと 待ちかまえている

どこ にも いない あなた を

 

いま ここ に いない あなたは

いつも どこか に 行こうとする

影をなくした人 の ように

いや 影だけ に なって

あなた が あなた であることさえ なくしていく

 

 

 

風の竪琴4●私という物語


(1997/10/9)

 

私という物語が

パソコンで文字を直すように

簡単に直せるならばどうだろう

 

その「直す」ということのまえで

私は立ちすくんでしまうかもしれない

 

まちがったことや後悔したことはたくさんあるのだけど

「直す」ことのできないまま

それを引き受けて生きることのなかに

私という物語のかけがえのなさがあるのだから

 

そのかけがえなさには

やすっぽい道徳などではない切実な部分がある

タイムワープSFのように楽しむわけにはいかないのだ

 

記憶という物語を抱きしめながら

私は喜び悲しみ怒り

さらに記憶にページを加えていく

けれどそれだけでないのも知っている

それらの記憶の背後には

もうひとりの私がいるのだ

 

そのもうひとりの私は

記憶の物語を決して書き換えようとはしない

書き換えようとするのは

まだ記憶になっていない物語

そして私のなかの心の絵文字だけなのだ

 

 

 

風の竪琴5●神秘学鏡遊戯


(1997/11/21)

 

ふいご手が私を世界へと連れだし

ふいご手がその手を休め私は世界から去る

 

最初の一息 最後の一息

その間のたゆまない繰り返しのなかで

私は鏡のこちら側を生きている

 

鏡のむこうにあるのは

死の世界

永遠の世界

私はそこから来て

やがてそこに帰っていく

 

私は息を吸い息を吐く

鏡の向こうではふいご手が私に息を送る

鏡のこちら側と向こう側

生と死という実と虚の関係

おそらくはその逆の関係

矛盾であることで成立する関係

 

ふいご手はだれ

ふいご手も私

私はだれ

私はふいご手

それに気づくとき

矛盾が矛盾のままで合一する

不思議な鏡の宇宙

 

私は鏡のまえでゆっくりと微笑んでみる

すると鏡の中の私も笑い返してくる

その遊びのなかで私がもう一人の私と合一する

 

 

 

風の竪琴6●言葉


(1997/12/4)

 

言葉の最奥にまだ残っている

あなたの真実の種を植えなさい

その種のほとんどは

芽さえ出さないかもしれないが

荒野のなかでも育つ種がきっとあるはずだ

 

そう言い残して

夢の人は立ち去って行った

 

声がかすれ誰にも届かない

そんな日にはいやそんな日にこそ

その人の思い出が私を掠めて過ぎる

 

言葉言葉言葉

言葉にいのちがあるならば

いのちのなかのひとすくいの真実に

私は賭けようと思う

いのちを賭けようと思う

 

そう言った人のことを

私はどこで知り得たのだろう

 

私はあなたに語りかける

この声が聞こえますか

この言葉の奧の奧にある

いのちの叫びが聞こえますか

 

目に見えぬ荒野がそこにある

人は見ぬことでそこを楽園と見る

耳に聞こえぬ叫びがある

人は聴かぬことで安寧を信じる

 

荒野に育つ真実の種を見ることはできる

しかしそのための眼を育てねばならぬ

言葉の奥底にある響きを聞き取ることはできる

しかしそのための耳を育てねばならぬ

 

夢の人の残したその言葉が

私のなかで響きわたりいつまでも消えない

 

ただひとつの言葉さえ語り得ないとき

そんなときにはいやそんなときこそ

その人の言葉がいつまでも私を

私の最奥にある音叉を撃ち続ける

 

 

 

風の竪琴7●ハレルヤ


(1997/12/8)

 

あなたは神を信じていると言っていましたね

信じることは自らを与えることなのに

自分に与えてくれることだけを望みながら

 

天から下りきて地を流れ

やがてふたたび帰りゆく道の半ばで

あなたはなにを求めなにを失くしたのか

 

あなたはただただ愛されたかっただけなのでしょう

だからそれが叶えられないからとあなたは自分の心を殺した

自分を与えることに恐怖しそこから逃げ続けることで

 

人の生はほんとうに不思議だ

天と地のめぐりはときに逆巻き

思いもかけない流れをつくりだす

 

あなたは安心できる居場所を探し続けたのではないでしょうか

そしてそれが与えられないことを嘆き続けた

自分でつくりだすことでしか与えられない場所にもかかわらず

 

光はあえて地へと下り闇となる

しかしそれは光を探すための旅

やがて闇は自らを捧げることで光へと変容する

 

あなたはいまどこにいるのでしょうか

すでにからっぽになってしまったからだを残して

そのからだでしかつくることのできないものから逃げて

 

光は光のままでは光にはなれない

光は闇となることで光になれる

その変容の儀式を祝祭とせよ

 

あなたはふたたびときを経て戻ってくるのでしょう

そのときあなたは自分をうけとめる器をつくれるのでしょうか

みずからの闇をしっかりと受けとめることのできる器を

 

ハレルヤハレルヤ

それは自由へむかうための祝祭

闇と光が変容しあう祈りの日

 

 

 

風の竪琴8●冬の夢幻スケッチ


(1997/12/8)

 

曇り空に映っていたのは

謎の文字たちでした

鈍い光に照らされた空から

花びらのように舞い落ちる雪

そして地上から舞い上がる焚き火の燐粉たち

その秘密めいて演じられる交感から

生み出される謎の文字たち

 

わたしは天から降ってきたのだろうか

そしてふたたび天へ昇っていくのだろうか

その繰り返しのなかで生まれる

ひとときの光のきらめきが

空で祝祭を奏でているのだろうか

 

光の秘密をたくさん飲み込み

色とりどりの繊維に変えて

落ちてくる落ちてくる結晶のプリズム

そしてそれを迎えながら舞い上がる蝶たちの乱舞

 

わたしはわたしということばになって

空いっぱいにひろがっていく

色と響きの織りなされた模様をまとい

くるくると旋回していく

 

曇り空の下で笑っているのは

わたしという謎の文字でした

 

 

 

風の竪琴9●歌


(1997/12/17)

 

 

私のなかに歌があるとき

宇宙が私といっしょに遊んでいる

私のなかに歌が見つからないとき

だれと遊べばいいのだろう

 

私のなかに歌があるとき

あなたは私とともにいて語り合う

私のなかに歌がひびかないとき

互いを見つけられず傷つけあう

 

私のなかに歌があるとき

ことばはそのいのちの流れにあり

私のなかから歌が失われるとき

死んだことばがただ積まれてゆく

 

私のなかに歌があるとき

歌のなかに私はいる

私のなかの歌を殺すとき

私は自分自身を殺している

 

 

 

風の竪琴10●迷宮譚


(1997/12/18)

 

 

あなたはどこにいるの

わたしはここにいるのに

あなたはここにいるのにここにいない

 

迷宮は果てしなく続き

わたしとあなたの世界はねじれ続ける

 

ほらこの花の香りがわかるかしら

いつかあなたが贈ってくれた

あのときたしかにあなたはここにいた

 

アリアドネの糸の端と端

同じ糸であるとは誰にもいえず

 

あの声はたしかあなたの好きだったメゾソプラノ

あなたがわたしに教えてくれた

あなたは聞いているのかしら

 

世界はひとつだと誰が言ったのだろう

こんなに近くにはるかな迷宮があるというのに

 

あなたの顔をこうしてさわれるのに

あなたはわたしを見ていない

あなたはどこにいるの

 


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