「武満徹を語る」レゾナンス

8 自分をさかのぼって


2007.4.27.

   サーキン 音楽の流れというのは普通、歴史的に時代的に捉えますね。
   まずバッハ、モーツアルト、ハイドン、ベートーヴェン、それから現
   代音楽とつながっていく。でも、武満さんの場合はそうじゃなくて、
   彼が生みだした音楽は、すべて今の自分とつながっている。今の彼と
   いうのがそのまま作品になる。実際、徹さんお音楽を理解していると
   わかるのですが、どんどん彼の曲は進化しています。はじめメシアン
   の影響を受け、例えば《前奏曲集》や《四重奏曲》、《キリストの昇
   天》、さらにドビュッシーと続き、何年もかけてどんどん音楽の歴史
   を逆に遡っていくのです。そして、武満さんがベートーヴェン、ハイ
   ドン、バッハの時代に辿りつくまでには、かなりの時間を費やしてい
   ます。
  (『武満徹を語る15の証言』小学館/2007.4.2.発行
   「第15章 ピアニスト・ピーター・サーキンさんに聞く」より)

いまの私は見る

いまの私
少し前の私
もう少し前の私
昨日の私
一週間前の私
一ヶ月前の私
一年前の私
十年前の私
二十年前の私
生まれてまもない私

いまの私はさらに見る

生まれてくる少し前の私
生まれてくるずっと前の私
宇宙の真夜中にいる私
死んで浄化の落ち着いた私
死んでまもない私

いまの私はさらに見続ける

死を受け入れる私
死を思い混乱する私
死をひとごとだと思っている私
死のことを思ってもみない私
生まれてくる私

そして私は見る
それら死と生の
秘密の糸たちの織りなす物語を

どの物語もどの物語も
まさにいまの私のなかで
ニューロンを縦横無尽に伸ばしながら
四次元のタペストリーを広げ続けているのだ