今井 私が武満さんの曲を弾き、楽譜を見ていつも思うのは、自由で
あるということです。いちばん彼の望んでいたものは秩序ある自由さ
ではなかったでしょうか。世界が自由であること、そうおっしゃって
いたことがいちばん心に残っています。自由っていえば、やはりトリ
オを演奏して本番の時のことなんですけど、西洋音楽というのは縦の
線が揃っていなければいけないですね。武満さんは「その時の内容で
ずれていい、無理して揃う必要はない」って言われたんです。その時、
ああ、これだな武満さんの求めるものは、と思いました。
(『武満徹を語る15の証言』小学館/2007.4.2.発行
「第3章 ヴィオラ奏者・今井信子さんに聞く」より)
時間が空間に閉じこめられると
時計がいつも見回りにきて
ぼくたちみんなを整列させる
そしてみんないっしょじゃなきゃいけないという
ほら遅れているぞ
ほら進みすぎだ
はみだしたら切り捨てちゃうぞ
遅れたらもう脱落だ
時間が涙を流すのを
聞いたことがありますか
その涙は空間の裏側で
声をひそめて待っているのです
恋するひとのそのやわらかな指を |