風日誌


伊良子清白

アルバン・ベルクのリート


2003.12.19

 

書店で平出隆の新刊を偶然見つけた。
それは『伊良子清白』と題されていた。
「月光抄」と「日光抄」という二冊で一巻本となっている。
美しい装丁。
ちょっとばかり高価な本なので少し立ち読みして
その人物が生涯に一冊だけ詩集を出して
その後沈黙してしまった医師だということだけわかり
そのちょっと不思議な名前の印象だけが残った。
これまでぼくの耳にしたことのなかった詩人の名前・・・伊良子清白。
鳥取県の生まれであるという。
 
その少し後、古書店に立ち寄り、筑摩書房からでている
古い(昭和45年発行)の日本文学全集の『現代詩集』の巻の最初に
その伊良子清白の『孔雀船』が収録されているのを見つけた。
意識されない偶然という必然に少し興味を覚え、
明治39年に発表されたというこの詩集を古書店で立ち読みするうち
その世界に引きこまれてしまうことになった。
 
その後、仕事の資料を借りていた県立図書館に本を返却に赴いたとき
ふと思いたって館内のパソコンで「伊良子清白」の名前を検索したところ、
平出隆の編集による伊良子清白全集が二巻本であるのがわかり
貸出できるというのでその詩及び短歌等の作品のすべてが収録されているという
第一巻目を借りて読み始めている。
 
調べてみると、その『孔雀船』という詩集は
刊行当時はまったく注目されなかったものの
その後、昭和4年に日夏耿之助に見出され岩波文庫として刊行されたという。
そして1993年に岩波文庫のワイド版としても刊行されたものの
今では絶版になってしまっているらしい・・・が、
ちょうどその本も書店の片隅に置かれているのを発見することができた。
 
少しだけその詩のなかから紹介してみることにしたいが
この雰囲気はなかなか伝わりにくいかもしれない。
(「月光日光」より)
 
   月光の
 
         語るらく
   わが見しは一の姫
      古あをき笛吹いて
      夜も深く塔(あららぎ)の
      階級(きざはし)に白々と
         立ちにけり
 
   日光の
 
         語るらく
   わが見しは二(つぎ)の姫
      香木の髄香る
      槽桁(ふなげた)や白乳に
      浴(ゆあ)みして降りかゝる
      花姿天人の
      喜悦(よろこび)に地(つち)どよみ
      虹立ちぬ
 
この後もおなじく
 
   月光の
 
         語るらく
   わが見しは一の姫
 
と
 
   日光の
 
         語るらく
   わが見しは二(つぎ)の姫
 
と繰り返されていく。
 
伊良子清白。
その詩魂の在処と詩を断ったことの謎をめぐり
平出隆のアプローチが気になる。
まずはしばらくのあいだその作品を渉猟してみることにしたい。
 
さて今日は、アルバン・ベルク(1885-1935)の歌曲集をきいてみる。
ジェシー・ノーマン(ソプラノ)とアン・シャイン(ピアノ)、
そしてピエール・ブーレーズ指揮/ロンドン交響楽団による(SRCR9791)。
収録されているのは、「7つの初期の歌(管弦楽伴奏稿)(1928)。
アルテンベルク歌曲集作品4
若き日のリートより12曲
2つの歌
 
ベルクは88曲のリートを作曲している。
そのほとんどが16歳から24歳にかけての時代につくられているということである。
そのリートのなんとみずみずしいこと。
それをジェシー・ノーマンがなんと繊細に歌いこなしていることか。
 
このCDはちょうどさきの伊良子清白の全集を借りるときに
図書館で見つけたものだけれど
なぜかはわからないが、このベルクのリートは
どこか伊良子清白の詩と通じている不思議な詩魂が
その内に生きているように感じられる。
 
 

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