風日誌


森毅『数学・文化・人生』

小坂忠「ほうろう」


2003.12.6

 

師走の大掃除にはまだ早いのだけれど、
今日はひさしぶりに部屋の片付けなどをした。
本棚などを片付けていると、案の定
懐かしい本などがでてきてついつい読んでしまうことになる。
 
そんななかに、ちょうど10年前の1993年のNHK人間大学のテキスト
森毅『数学・文化・人生』があって、
久々に森毅さんの心なごむ語り口を味わっていたりした。
森毅さんはyuccaがとても気に入っているジサマで
いろいろ読んでいるようである。
こんな人が世の中にたくさんいるととても生きやすいのだけれど
そうでないところがこの世の悲しいところなんだろうな。
 
で、今日はその10年前のテキストの中から気に入ったところを二つほど。
 
         数学をやっている人の中に二つのタイプがあります。たとえば、数学であ
        る種の処理のしかたをして、それに熟達すると、できるだけその処理のしか
        たでものごとを判断したがる癖のある人と、処理のしかたはいろいろあるん
        だということで、むしろほかの処理のしかたへ目を開くタイプの人とがいま
        す。どっちがいいか悪いかではなくて、たぶん両方あり、僕の場合は外の世
        界との絡まりでやっているほうが好きなタイプです。
 
         よくこういうたとえ話をします。僕は京都をよく知っていますから、東山
        などへ行くときに、観光地図に出ている道なんて行く気がありません。しか
        し隅から隅まで知っているわけではありませんから道に迷ったり、ちょっと
        それたりします。でも、いくらなんでも東山で熊に食われることもないし、
        気楽にウロウロしているうちに、思わぬところへ出たとか、迷った道が結構
        楽しいとか、清水寺へ出るつもりが祇園へ出てしまうという程度の間違いは
        あっても、反対側へ出るようなことはない。そうやって迷ったら迷ったでい
        い、間違ったら間違ったで楽しいナとやっているうちに、山の感じがつかめ
        るようになります。東山をよく知っているからそれができるのです。
         ところが、初めて京都へ来た人が地図どおりの道をはずれたら何が起こる
        かわからない。できるだけ地図からはずれまいとする。うっかりはずれたら、
        おもしろい経験だと思って楽しんでいられればいいが、楽しむゆとりがなく、
        なんとかして正しい道に戻ろうとする。そのために、せっかく迷っても周り
        の山の感じがつかめない。正しい道を歩むことばかりを考えていると、つら
        いです。気楽に、心配のいらない程度に迷うことを覚え、景色を目に入れる
        ことを憶えたほうがだいたいは得です。しかし、そんなことをして何の役に
        立つかといわれるとちょっとつらくて、たしかにテストでは数学ができるほ
        うが得です。これは現実にしようがありません。
 
なんか、ぼくも寄り道、迷い道のほうばかりで
「正しい道」のほうは少ないようなので
(こういうネットもほんとうに「寄り道」以外の何ものでもないんだろうな)
あまり得をしているような生き方はしていないようだ。
でも最初から「正しい道」を迷わず歩くというのはぼくには似合わないので
こうしていい年をしても道草食ってるのが好きなんだろうなとか思う。
たぶん成功した生き方とはほど遠いんだろうけど
ぼくにはぼくにしかできないやり方がある、んだろう、
というふうに思っておくことにしよう。
(森毅さんの話をきいていると、とても気が楽になる)
 
今日は、小坂忠の「ほうろう」をきく。
一昨年の暮れに発売された久々のアルバム「People」から細野晴臣のナンバー。
このアルバムはその頃よくきいていて
広島でのコンサートもあった(けれど行けなくて悲しかった)。
 
小坂忠というのは不思議な人で牧師をしていたりもする。
で、いわゆるJーPOPのシーンから離れて
ゴスペルとかを歌っていたりした。
だから以前よりずっと歌がうまくなっている気がする。
 
ところで「ほうろう」。
ぼくは面倒くさがりで腰も重いので、
いわゆる外的に「ほうろう」してきたわけではないけれど、
別の意味でいえばけっこう「ほうろう」してきているような気もしている。
迷い続けているのでもあるし、好奇心がありすぎるのでもある。
 
ゲーテがいうように
「努力をしているかぎり、人は迷うものだ」
であればいいが・・・。
 
 

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