風のメモランダム

吾妻ひでお・手塚治虫文化賞大賞/キリストとテンプル騎士団


2006.5.10.Wed.

■吾妻ひでお「失踪日記」手塚治虫文化賞大賞受賞

すでに復活!吾妻ひでおの「失踪日記」については紹介済みだが、
今回それが手塚治虫文化賞の大賞を受賞したらしい(うれしい)。
受賞しても吾妻ひでおは坦々としているようである。
自殺しかけたりホームレスをしたり配管工になったりアル中になったりした自分を
ユーモアをもって描けるということは、
坦々と自分を見つめる目を持ち続けているということだろう。
香山リカとか萩尾望都はまったく点を入れてなかったようだが、
おそらくこういう種類の、不条理を突き抜けたところにあるポエジーとは
まったく別のところに評価の基準をもってきているのだろう。

■世界でいちばん古くて大切なスピリチュアルの教え

エックハルト・トールという人の↑というタイトルの本(徳間書店)の
表紙のブルーに目がとまって立ち読みをはじめたところ
わりとおもしろそうだったので読んでみた。
この類の本はどうも金太郎飴のようなニューエイジ風のものが多くて
敬遠しがちなのだけれど、そのなかではけっこう直球的な感じを受けた。

要は、自分を見つめる静かな目をもて!そこに自分がいる、ということ。
少し堅めにいえば、反省意識のなかにみずからを見いだせ!ということ。
読みながら思い出したのは、良寛の次のようなことばである。

災難にあうときは災難にあうがよく候 
死ぬときは死ぬがよく候 
これ災難をまぬがれる妙法にて候

本書のなかでは、たとえばこれを次のように表現していたりする。

苦しいとき、不幸なとき、完全に「いまあるもの」の中に
在ることです。不幸も問題も、「いま」の中では生き延び
ることができません。

■エハン・デラヴィ『キリストとテンプル騎士団』(明窓出版)

そんなに好きな人でもないしちょっと美意識的にはシンドイけれど、
けっこうイケル内容もあれこれ情報提供してくれるという意味で
このエハン・デラヴィという人はけっこう面白い人ではある。
これは、表題のテーマについての講演をまとめたもの。
書いてあることのある種の部分はあまりに図式的ではあるけれど、
キリストやテンプル騎士団についての基本的なところは納得できるところが多い。
とはいえ、ダヴィンチ・コードなどの関係で示唆されているような
キリストがその後も生き延びて・・・という話はどうかな、と思う。
マグダラのマリヤといったヨハネ系の系譜はあるだろうとは思うけれど。

で、「災難にあうときは災難にあうがよく候」とかに関連していえば、
本書のなかで述べられているキリストの教えで面白いものがあった。

キリストの教えの中心は、つまり知性の使い方、思考の仕方です。
これは、どのように考えればいいのか、何を考えればいいのか、と
いうことではなく、記憶の捨て方を教えたということなのです。

つまり、「人間のすべての問題の中心は、記憶」だというわけです。
これはいえてるなあ、と思う。

ぼくは記憶力がとても悪くて、すぐにいろいろ忘れてしまうほうなので、
それで、けっこうのほほんと、たらたらと、生きることができているんだろう なと思う。
まあ、程度問題ではあるけれど、記憶のいい人というのは、
たしかに悩みを忘れることができないわけで、つらいだろうなあという気がする。