風のメモランダム

武満徹:波の盆/小三治『まくら』


2006.3.15.Wed.

■武満徹:波の盆

タワーレコードでもらえるintoxicateVol.60の武満徹特集の
武満眞樹×鯉沼利成×小沼純一の対談のなかで、
鯉沼利成が「ぼくが好きなのは《波の盆》ですよね。最高ですよ。
とあり、それに続いて、武満眞樹が
「谷川俊太郎さんもあれが大好きで、父が入院しているときに
『あんな作品残したんだからいいじゃん』って言われて父がすごい怒って」
とかあって、いろんな人が、《波の盆》をいいといっているようなので、
ずっとまだ聴いたことのなかった《波の盆》のことが
妙に気になって仕方なかったのだけれど、聴く機会がなかった。

この《波の盆》は、1983年に
日本テレビ系のスペシャルドラマ「波の盆」の音楽として録音されたもの。
一度は、レコード、その後CDとしてでていたらしいが、
限定版だったとかで結局店頭から姿を消していたのを
1999年にあらためて「ラサポイント」というところから
「ヒーリングサウンドトラック」ということで再発売された。
それをアマゾンの中古盤で探すことができたのだけれど、
面白いことにその出品者がぼくの隣町の人だった。

これが武満徹の音楽?と一瞬おもったけれど、
やはりこれも武満徹の音楽なのだとあらためて納得。
確かに「ヒーリングサウンドトラック」というか、
もう、オーソドックスをオーソドックスにしたような
美しい音色のストリングスなのだけれど、
似たような音楽があっても、おそらくどこか
このまったくわざとらしさのない美しさに行き着くことは
おそらくできないのだろうと思う。
これは、武満徹がまるで武者小路実篤が茄子の絵を描くように
さらりと肩をいからせることなくさらりと描いた音のスケッチなのだろう。

■小三治『まくら』

毎日落語をきいているわけではないが、
落語をきかないで少し時間が経つと
どこかその話芸というか噺が恋しくなってしまう。

で、落語をきく楽しみのひとつが「まくら」である。
枝雀とかの「まくら」なども気に入っている。
このところ落語をきくような気持ちの余裕もなく、
慌ただしい日々のなかですり切れそうになって
落語を恋しく思っていたときに
ふと目にとまったのが『ま・く・ら』というタイトルのついた文庫本。
柳家小三治の「まくら」を集めたものである。
この文庫は最初に1998年にでているが、
好評だったのか、『もひとつ ま・く・ら』というのも2001年にでている。

これまで柳家小三治の落語は、ご縁があまりなかったのか、
いくつかきいたものがいまひとつぴんとこなかったのもあって
あまりたくさんはきいたことがなかったのだけれど、
その『ま・く・ら』の味がなかなか良かったので、
いくつかCDをきいてみることにしたら、
以前の印象とちょっと違ってその味わいがじんわりと伝わってきた。
やはりぼくのほうも、耳やその他の感覚など、その都度変わってきているらしい。
「小別れ」の上・中・下に挑戦してあるものなどもあるが、
小三治の意気の伝わってくるものなど、なかなかである。

しかし、噺家の話芸の間のなかに
ぼーっと自分を吸い込ませてみる時間を持つというのはいいものだ。
ときに、その噺の内容というのでなく、
声の色と間そのものを気持ちよく感じるだけのときもあるが、格別である。