風の歌


(92/09/10)
 
今 ようやく歌がはじまろうとしている
長い長い間消え去っていた歌
そう あなたのこころのずっと奥に
大切にしまいこまれたまま
いつのまにか忘れ去られていたあの歌が
 
さあ 歌ってごらん
こわがらないで さあ
あなたを閉じ込めていた恐ろしい幻影が
またその力を取り戻してしまう前に
そうすれば永遠が
本来あなたであるはずの永遠が
そこに流れ出てくるはず
 
あなたの旅はここに終わり
その終わりがまたはじまりとなる
永遠がふたたび幻影の中に
閉じ込められてしまうこともあるだろうが
あなたは決して恐れてはならない
恐れは歌をかき消してしまうから
 
歌を忘れたときにはあの風の精を思い出すがいい
あのなにものにもとらわれない風の精を
風の精は偽りをとどめない
軽く笑いながらそれをぬぐい去ってくれるだろう
みみをすませば風が聞こえる
風の中に住む精霊のささやきが聞こえる
あなたを縛るものはなにもないとささやくのが聞こえる
 
さあ 自由の翼を手にいれたあなたよ
旅の準備はいいか
心の準備のことだ
自由の翼を汚そうとするものは多い
自由の翼をあざ笑うものは多い
だからだ だからあなたはそれらの汚れからも自由であれ
自由であるためには大きな勇気が必要だ
その勇気とともに風になれ
愛多き風になれ
そこに「歌」がある
あなたはそこで「歌」になる
 
 

風のエレジー


(92/09/11)
 
    あるとき私は風をみた
    私の中に風をみた
    それがいつなのか思いだせないけれど
    たしかに私はすきとおった風になっていた
 
    あるとき風は彼方にあり ここにもあった
    またあるとき風は彼方になく ここにもなかった
    あるとき風はあなたであり 私だった
    またあるとき風はあなたではなく 私でもなかった
 
    風は愛を伝えた
    ひとしれぬ愛を伝えた
    ときには涙とともにあり
    ときには喜びとともにあったが
    怒りの言葉さえ伝えることもあった
    そんなとき風は悲しさに身をふるわせた
 
    風は夢の中にしのびこむのが好きだった
    とりわけすきとおった子供の夢に
    子供の心をなくしていない者の夢にも
    けれど汚れた夢の中にはいることはできなかった
    あまりに重い心の中では
    風は吹き渡っていくことができないのだ
 
    ふと目ざめると 風が泣いていた
    なぜ なぜ なぜとふるえていた
 
    なぜひとは自由になれないのだろう
    なぜ愛をひとりじめしようとするのだろう
    なぜ真実から逃げようとするのだろう
    なぜ透明な夢を汚そうとするのだろう
    なぜ希望をみずからの手で殺そうとするのだろう
    なぜ理想をなくして平気なのだろう
    なぜ なぜ なぜ
 
    私の中の風よ
    あなたの中の風よ
    おまえはどこにいこうとしているのか
 
    風は告げる
    世界はいま変わろうとしている
    だからみずからの中に風を持つものに
    告げなければならないのだ
    あなたは風である
    そのことに気づけと
   
 

時を告げる鐘


(92/09/13)
 
    鐘が鳴り響く
    時代の鐘が鳴り響く
    聴けるものは聴け
 
    耳を塞ぐものは後を絶たないであろうが
    空に印の現れているのをみるときに
    多くのものは声をあげてその時を告げるであろう
    あるものは嘆きのなかで
    またあるものは悲しみのなかで
    しかし数少ないものだけがその印に希望を見るであろう
 
    鐘が鳴り響く
    その音色は空に響きわたるが
    その音はこの世のそれではない
    風がそれ自体は姿をみせないけれども確かにあるように
    その音も我々の中にある風を通じてその姿を響かせる
 
    だれか空に花を投げるものがいる
    その花は誰にむけられた祈りか
    だれか火に心を投げるものがいる
    その心は誰にむけられた悲しみか
    だれもみずからを許すことができない
    だれもみずからに喜びを見いだすことができない
    
    時代の鐘が鳴り響く
    もはや猶予はできない
    時代の意志はその火で世界を焼き尽くそうとしているのだ
    火の中でみずからを失わないものは幸いだ
    みずからを捧げ尽くせるものだけがその幸いを得るであろう
    その火は我々の心の汚れを焼き尽くすからだ
    透明な祈りだけが天に届くであろう
    それはもはやみずからの命から自由だからだ
 
    福音はみずからの内にある
    心してその声に耳を傾けよ
    時代の鐘は悲しみを告げるが
    それはまた希望でもあることを
    みみをすまして聴くのだ
    そこに大いなる自由を見いだすものは
    永遠の命の中にあるであろう
    時は来たれり
    鐘は鳴る
 
 

希望の湖


(92/09/14)
 
    天から音もなく降り続けるものがあり
    それを静かに受けとめる大地の手があった
    地から音もなく上昇していくものがあり
    それをまた静かに受け入れる天空の手があった
 
    大地の手と天空の手がみえない虚空で結びあって
    オーロラのような炎の輝きがひらめいた
    それこそが今変貌を遂げようとしているガイアの息
    その息が次第に大きな炎の風となって
    この地をこの空をこの海を激しくふるわせるときは近い
 
    その風をしんと静まり返った心の湖に映す者よ
    おまえの名を私は希望ある者と呼ぼう
    いまはまだ語るべき名もなく
    ひとはそれを呼ぶことさえできずにいるが
    おまえこそ希望にふさわしい者である
    おまえの心の湖はいつも鏡のように
    輝きをふくみながらすべてを透明に映しだす
 
    私のなかにも、またあなたのなかにも
    かつて希望の湖はその鏡の面をたたえていた
    その面にさざなみを立てたのはいったい誰であったか
    そのはるかな記憶の中でひそかに気味悪く笑う声があった
    満月の輝きのある湖面を妬んで笑う声があった
 
    それは静を動に変える働きもしたが
    私をそしてあなたをその湖から遠ざけるものでもあった
    それ以来その湖面は心の奥底に沈み込んでしまって
    その名さえ思い出せなくなってしまっていたのだ
 
    ああ 今はその名を告げることのできる希望よ
    大地の手と天空の手の戯れを映せ
    その鏡の顔でその透明な炎を映せ
    祈りはそこで真と善と美を結晶させる
    その純粋さをもって大地にふれ
    そのきらめきをもって天空にふれよ
    ガイアの涙はそれでささやかに癒されるから
 
 

自由のためのレクイエム


(92/09/15)
 
    私と世界が矛盾する
    だから私とあなたも矛盾する
    空は青く透き通って高い
    私はここにいて
    モーツアルトのレクイエムを聴く
 
    私は自由だ
    私は不自由だ
    だから私は生きている
    あなたも自由だ
    あなたも不自由だ
    だからあなたも生きている
    個性的に魅力的に
    ときにはおそろしく堕落して
    ときには透き通った心で
 
    生きいるということはおそろしい
    だから生きているということは美しい
    私とあなたが話している
    そのおそろしさと美しさの間に
    孤独と愛が交錯する
    猫は塀の上であくびをしている
 
    すべての瞬間に試練があり堕落がある
    鳥は空を飛び魚は水を泳ぐが
    人間は危なっかしい自由を生きる
    花を愛するのもまた汚すのも自由
    私とあなたの限りないふれあいも自由
 
    見えないところで自由がカタチになろうとしている
    そのカタチをつくるのは私でありあなた
    そのカタチが試練であり罰である
    自由を生かしたときにだけそれは希望となる
    カタチが襲ってきても私とあなたは気づかない
    いつのまにか訪れる奈落に気づかない
    そんなとき自由は大きな代償を旅の道連れにする
 
    青い空はなにも語らない
    秋の風はときおり緑を揺する
    私は自由だ
    そしてあなたも自由だ
    不意に音楽が途切れる
 
 

目覚めの鼓動


(92/09/18)
 
    誰が風を止めたのか
    天使の息は風に乗ってやってくる
    なのに 誰が風を止めたのか
    天使の声は風に乗ってやってくる
 
    風は心の重さに耐えられない
    なのに 誰もが地上を這う
    風は汚れたものに耐えられない
    なのに 誰もが濁った水を飲む
 
 信じることを忘れてしまった心があって
 行く先を忘れてしまった心があって
 愛を与えることを嫌う者たちがいる 
    誰が愛を止めたのか
    天使の息は愛に乗ってやってくる
    なのに 誰が愛を止めたのか
    天使の声は愛に乗ってやってくる
 
    愛は不信に耐えられない
    愛は奪うことに耐えられない
    愛は風の止まるのに耐えられない
 
    風を止めた者
    それはわたしであり
    またあなたでもある
    だからわたしのなかの風よ
    あなたのなかの風よ
    目覚めてほしい
    そして天使の声を運んでほしい
    天使の愛を運んでほしい
 
    さあ 目覚めの鼓動よ あれ
    わたしとあなたの新しい物語のために
    わたしとあなたの新しい歌のために
 
 

特別な日●永遠


(92/09/20)
 
    あの日のことならば今もはっきりと憶えている
    あのひとは言った「今日は特別な日になりそうだ」
    満月が大きく青いため息をつき猫が集会をしていた
    そんな夜のことだ
 
    「今日 私は死の国に近づく」
    「私は生きながらにして死を体験するのだ」
    あのひとは大きく高笑いをした
    そう、あの日は特別な日だった
 
    あのひとのことならば今は僕にも僕なりに理解できる気がする
    あのひとはあの特別な日
    生のなかに死を見つけ死のなかに生を見つけたのだ
    時間のなかに空間を見つけ空間のなかに時間を見つけたのだ
    1のなかに2を見つけ2のなかに1を見つけたのだ
    
    今日は永遠が注ぎ込まれる日
    しかしあのひとはこうも言うのだ
    「今日は特別な日であってもはや特別な日ではない」
    「今が永遠となり永遠が今となるからだ」
    「私は生であり死である」
    あのひとはまるで猫のようにしなやかに身を踊らせると
    窓をひらりと飛び越して夜の闇のなかに消えていった
 
    みみをすませ
    永遠がそこに息づいているのが聞こえないか
    生と死の顔を持つ者が笑っているのが聞こえないか
    
    あの特別な日のことならば今もはっきりと憶えている
    あのひとのことならば今は僕にも僕なりに理解できる気がする
    あの特別な日は永遠であり
    そこには生と死がともにあるのだ
    
 

内なる目


(92/09/21)
 
     「見ているだけではいけない
      きみの目に映るものを自分のものにするんだ
    大きな銀色のマントに身を包んだ旅人は
    低く響きわたる声でそう言った
     「聞こえるものをそのままにしてはいけない
      きみに聞こえるものを自分のものにするんだ
    そうも言った
 
    星はビロードの空にきらめき
    海ははるかに月の光を波立たせていた
    旅人はひとさしゆびを月に向けた
     「あの月がみえるかな
     「あの月をきみは見ているつもりだろうが
      きみが見ているのは
      ほんとうは私が指し示している月ではないのだ
     「私のいうことをようく覚えておくんだ
     「いいかね きみの真実はきみのなかにある月なのだ
 
    そういい終えるか終えないうちに
    銀のマントが月にむかってひらめいたと思った瞬間
    旅人は姿を消していた
    そして 空に浮かんでいた月さえも
    もちろんあの空にきらめいていたはずの星たちさえもが
 
    その夜から私はこれまでのように見ることができなくなった
    花を見ようとすれば私の中の花を見なければならならなかった
    しかし そのかわりに私はみるようになったものは
    私の中の風であり火である水であり地であり
    私の中の聖霊たちだった
    
    私は気づいた
    見るだけの私は私ではないのだということに
    私のなかに見るものこそが真実であり
    あなたがみずからのなかにみるものこそが真実であることに
    そして 私とあなたのなかにみるものが真実である限り
    それらは同じ聖霊の場所であるということに
    そしてまた 世界はそこからしか新生しないということにも
   
 

収穫の時


(92/09/22)
 
    さて 夏のシンフォニーは去った
    あの輝く生命たちの供宴は大きな拍手とともに
    アンコールの声もむなしく
    天体の運行にその幕を閉じてしまった
 
    思い出は多いだろうが
    それを嘆いてはいけないよ
    そんなやさしい風が野を渡る
    そう あの夏のシンフォニーは
    収穫祭のための供宴だったのだ
    大切なのは 収穫とはなにかということ
 
    それから 忘れてはいけないことがある
    ほんとうの始まりはこれからだということを
    夏のシンフォニーは
    私たちの内なるファンタジーにその役割を譲り 
    さらに磨きをかけていくためにあったのだということを
 
    さあ これからがはじまりだ
    花たちは実りのためにダンスを繰り広げた
    鳥たちはともにそのダンスに興じていたが
    いまや空高く風とともに収穫の祈りを歌う
 
    >時にもさまざまなシンフォニーがあるのさ
    >これからくる時の顔に自分を失ってはいけないよ
    >華々しいものだけが豊かさじゃないんだ
    >やがてくる冬の景色に心を冷たくしてはいけないよ
    >あたたかさはあなたの内にあるはずだから
    
 

荒野を旅する者


(92/09/24)
 
    荒野を旅する者よ
    おまえの道ははるかに遠い
    荒野で流した涙について知らぬわけではないが
    その涙が荒野を潤わせるときまで
    おまえの旅は終わることはないだろう
 
    旅の地図はない
    それはおまえがつくるもの
    かつて荒野を旅した先人たちの地図は
    おまえを誤らせるのに充分だからだ
 
    しかし死を賭けた祈りは
    おまえの前に道をひらくであろう
    そのとき道はもはや
    おまえだけのものではなくなり
    旅そのものが祈りとなるからだ
 
    おまえがゆく荒野は心の砂漠である
    草一本生えていない不毛の地である
    だからそのみせかけだけのきらめきに
    心とらわれてはならない
 
    おまえの旅の目的は
    その荒野を緑野に変えることにある
    そのためにはおまえの涙をその荒野に注ぎ
    みずからの手で血まみれになりながら
    耕していくしか方法はないのだ
 
    おまえを気がふれてしまったと評する者は
    後を断たないであろうが
    そんな者の声に耳を傾けてはならない
    そんなときにこそ祈らねばならない
    死を賭けて祈らねばならない
 
    荒野を旅する者よ
    おまえの耕していく荒野に種を蒔け
    愛の種を蒔け
    祈りの種を蒔け
    ほんのわずかではあろうが
    そこから確かに緑野がひろがっていくはずだ
    そこに希望を見いだせ
    荒野を旅する者に幸いあれ

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