「武満徹Visions in Time」レゾナンス5

永遠の旅人

2006.5.8

 旅の意味は、一つの地点から他のもう一つの決定された地点へ
向かうその目的性にあるのではなく、その経過の、限定されない
人為的な意志によっては制しようもない領域にあるのであり、し
たがって、真の旅は終わることがない。私たちが一つの目的地に
滞まることを望む時は、表現行為は特権的な美に支配され、旅は
全て無意味になってしまう。それにしても、ノグチのように旅し
続けることは容易な業ではない。(中略)
 ノグチの作品表現は、たどり着いた結果として為されるのでは
なく、それはいつでもはじまりの予感に充ちた永遠への止み難い
欲望の形態をしている。私にとってそれらは官能的なものとして
映る。
(ーー「イサム・ノグチーー旅するもの」『樹の鏡、草原の鏡』)

 

旅はいつはじまったのか
いつ終わるのか

永遠の旅人は
いつも永遠の今ここにいて
どこからのどこ
そしてどこへのどこ
そのふたつの場所を
常に無常で
同時に永遠でもある
標として位置づける
私と私の同一性と差異の間を煩悶しながら

旅し続けること
それはいつもはじまりであり
常に永遠を内包しながら
永遠へと向かう欲望に焦がれ
決して特権化され得ない美の官能を生きること

私はかつてあった私であり
同時にいまある私であり
来るべき私でもある

私は私を恋して
私を追い続けているのか
それとも
私は私を逃れ
私から逃げ続けようとしているのか

旅人の夢は枯れ野を
ときに花野を
永遠にかけめぐる