「武満徹Visions in Time」レゾナンス2

宇宙眼

2006.4.26

瀧口修造から学んだことは限り無い。だが私にとって最も重要
なひとつは、<他者を識る>ということであった。当時の若者
にとっては、砂漠に湧出する水のように眩く、貴いものに思わ
れた、『近代芸術』のような書が著わされたのも、たんなる公
平無私からではなく、小我の鬩ぎ合いを繰り返すこの現実の状
況を超えた、世界の真のオリジンを探ねる瀧口さんの宇宙眼
(コズミックアイ)によるのだ。
(ーー「瀧口修造展に寄せて」『音楽を呼びさますもの』)

 

ぼくはぼくだ
というのはたやすいけれど
ぼくはあなただ
といえるには
ほとうもない愛が必要になる

あなたは他者として
ぼくのまえにたつ
まるで
はじめての他者のように

それまで
ぼくはぼくでしかなかったのに
それだけでは
あなたを愛することができない

あなたに近づくということは
ぼくがぼくでないぼくにもなるということだ
そのためにはぼくはじぶんを
どこまでも傷つけたりもしてしまう
そんな必要なんかないんだとわかるまでに
湖さえもあふれさせるほどの涙さえ流して

宇宙というのは広大かもしれない
けれどあなたを愛するということは
ぼくが宇宙になるということでもある
そのことに気づいたとき
ぼくは宇宙の眼になって
ぼくはあなたになって
そしてぼくを見ている