「武満徹Visions in Time」レゾナンス1

夢の架け橋

2006.4.25

今日この地上では凡ゆる欲望は悉く現実化され、そのために
夢は瞬間に色褪せてしまう。饒かさは停滞に過ぎず、色褪せ
た夢が蓄積する泥濘に私たちは足をとられている。然うした
状況のなかで、瀧口さんのように真実の夢を探り、また夢み
えた存在は稀であった。非生産的な夢を生産することの逆説
が、このように厳しくまた貴いものであることを私たちは知
らなかった。瀧口さんの夢の架橋を渡ってーーそれは実現の
延期を余儀なくされ、またそれが至るところは想像を絶する
ものかもしれないがーーそこに見えるものから目を逸らして
はならないと思う。
(ーー「瀧口修造の死」『音楽の余白から』)

 

欲望が現実化される
その欲望の湧きだしてくる泉

かつて真実の夢を渡す橋を紡いでいた
その泉に住む妖精は
いったいどこにいってしまったのか

それとも
いまそこで忙しく立ち働いている存在は
かつてのその妖精なのだろうか
そして堕天使のように
地上の欲望のなかで
死んでしまった夢を紡ぎ続けているのだろうか

私たちは紡がれた夢の衣を
日ごと夜ごと着替えながら
現実化されなければならない欲望を追いかけ
決して癒されることはないことを知りながら
否応なくかきたてられる渇きを
欲望の泉で癒そうとする

真実の夢の架け橋をこそ探さなければならない
非現実に見えるほどの彼方で
湧き出ている泉の水を飲まねばならない

現実化を迫る欲望の時間の流れに逆行し
欲望のわき起こる泉の水をむしろさかのぼり
死んだ夢を映し出しているスクリーンの光をさかのぼり
まぶしい光を放つその光源を辿り
夢の源像を紡ぐ光をこそ見ようとしなければならない
その光を見たがために死を選ぶことになるとしても