シュタイナーノート116

新しいリズムを生み出すこと


2005.9.19.Mon.

 

    大都市の人間が昼夜逆転の生活をしているのは、まだ些細なことです。人間の
   内面が宇宙リズムから切り離されたことが、大きな問題です。人間が瞬間ごとに
   考えるのは、ある点で、大きな宇宙の経過に矛盾しています。
    人間をふたたび、そのようなリズムのなかにもたらす世界観を説いている、と
   は考えないでください。人間は古いリズムから抜け出なくてはなりませ んでした。
   それが進歩です。今日、「自然に帰れ」と説教する予言者は、うしろにネジを巻
   いているのであって、人類を進歩させません。自然への回帰を説く素人のおしゃ
   べりは、本当の進化について何も理解していません。
    ある食べものを特別の季節にだけ食べようと勧める運動があります。自然は食
   べものを特定の時期に生長させるからだ、というのです。これはまったく抽象的
   な素人の無駄話です。人間が外的なリズムに依存しなくなることが進歩 なのです。
    人間が古いリズムに帰ることが進歩なのではありませんし、人間の救いでもあ
   りません。「どのように月の四つの弦と一致して暮らそうか」と思うことが、進
   歩・幸福なのではありません。人間が宇宙の押印のようであることが、古代には
   必要でした。しかし、人間はリズムなしには生きられない、と思うことも大事で
   です。
    人間は外から内面化されたように、内面から再びリズミカルに自らを構築しな
   ければなりません。これが大事なことです。リズムが内面を貫かねばな りません。
   リズムが宇宙を構築しました。人間は新しい宇宙の構築に参加しようと するなら、
   再び新しいリズムに貫かれねばなりません。
    古いリズム、外的なリズムが失われ、また新しい内的なリズムが得られていな
   というのが、現代の特徴です。神霊の外的な表現が自然です。人間は自然からは
   みだしたものの、まだ神霊そのもののなかへと成長していません。人間 は、今日、
   自然と精神のあいだを行ったり来たりしています。これが現代の特徴です。
   (…)
    人間は時計=アストラル体を規則正しくするために、自分のなかに再びリズム
   を見いださねばなりません。精神科学が振り子調整機になります。精神科学は、
   透視者が見る大宇宙の法則と一致しているからです。
    人間が作る未来は、宇宙の過去における数の関係を、高次の段階で示すことに
   なるでしょう。神々が数から宇宙を作り上げたように、人間は数から未来を生み
   出さねばなりません。 
  (シュタイナー「人間のリズム」
   『シュタイナーの美しい生活』西川隆範訳/風濤社 所収/P150-156)
 
規則正しい生活は大切なことではあるけれど、
それそのものが目的であるわけではないことを知る必要がある。
自然から学ぶということはとても大切で欠かすことのできないことではあるけれど、
だからといって、自然に帰るということが目的であるわけではないのはもちろ んである。
 
自然から学び、
リズムのある生活を送ること。
しかしそれは、過去へ戻ることではない。
 
人間は、一度「自然」から切り離される必要があった。
それは、人間が「自由」を獲得するということでもある。
古いリズムを捨てること。
新しいリズムを構築すること。
 
おそらく音楽にもそういうことがいえるのだろう。
宇宙の音楽はいちど分断されなければならなかったのかもしれない。
そうしてあらためて新しいリズムと旋律を紡ぎ出していく。
 
自我の成長は、そういう意味で、
古いリズムを捨てることでもあるだろう。
そこで人はさまざまに混乱してしまうことになるが、
そうすることで、新しいリズムを刻んでいくことが
自我を獲得するという課題のひとつになる。
 
しかしそのためのガイドは必要である。
かつての時代はその課題を「再び結びつける」という宗教が
負っているところもあったのだろうが、
現代ではむしろそれはさまざまな逆行の危険性のほうが大きい。
 
「人間はリズムなしには生きられない」が
外からはめられた枠のようなリズムではなく、
精神科学が示唆するような
自由に貫かれた宇宙的なリズムこそが
獲得するべきリズムにふさわしいのではないだろうか。
 
繰り返しておくが、
自然に帰れ!は、逆行である。
もちろん昨今の縄文賛美もそれに類する。
 
そうではなく、高次の自然に向かって
みずらかのリズムを打ち鳴らせ!というのが
現代の人間の課題なのだ。
 
 

 ■シュタイナー研究室に戻る

 ■神秘学遊戯団ホームページに戻る