風のトポスノート486

 

むすび


2003.6.10.

 

        池田 「むすび」の問題でもうひとつ言っておかなければいけないことがあります。
        これはいまく説明できないんですが、天皇になる資格を持つためには、いくつかの
        魂をむすびこめる必要があった、ということですね。つまり、日の神の系図の上に
        のせられるためには、天皇霊という名前の霊魂が必要であった。そして大和の国を
        治めるために国魂としての大和の魂が必要であった。そこで中臣氏あるいは猿女に
        よる鎮魂と、物部氏の鎮魂、この二つによって霊魂を補充しないと天皇になれなか
        った、ということなんです。
        谷川 猿女の場合はどちらですか。
        池田 天皇霊ですね。こういう形がありますから、なかなか大和の国に入れない天
        皇もでてくるんです。
        谷川 継体天皇なんかがそうですね。
        池田 ええ、あの天皇は、二十年も周辺で待っていなければならなかった。それは大
        和の国魂がなかなか結びつかなかったからなんです。天皇にはなったけれど、大和を
        治める威力が身につかないから大和に入れない。こうしたことは歴史上でも明らかに
        考えられることですから、霊魂を保持させるための「むすび」の技術、「むすび」の
        神は考えられなければなりません。
        (池田彌三郎・谷川健一『柳田国男と折口信夫』
         岩波書店/同時代ライブラリー202 P133-134)
 
        池田 「水の女」以来、折口は水の妃のことをすっと考えていたようです。宮中のこ
        とですからたいへん晦渋な文章になっていますが、火の系統と水の系統があって、双
        方の女が宮中に入って宮中のまつりが完成する、というようなことを考えていたよう
        です。妃は水の神の系統、とすると中宮は、これはナカツスメラミコトの変化だから、
        どうも火の神の系統じゃないか。ここまでは折口は言っていませんで、また僕の単純
        化がすぎているのかも知れないんですが、このあたりが解けると、折口信夫の古代学
        のかなり重要な部分が解明できそうな気がします。
        (同上/P211)
 
国神と天神のむすび。
火の神と水の神のむすび、火水(かみ)。
 
天皇霊というのはその「むすび」にかかわっていたのかもしれない。
国神の神託と天神の神託とをむすぶ。
火の神の神託と水の神の神託をむすぶ。
「大和の国を治めるために国魂としての大和の魂が必要であった」
大和(やまと)は、大きく和すると書く。
大きく和することができるというのが「大和の魂」だったのかもしれない。
 
シュタイナーは『神秘学概論』で
ブルカン星、水星、金星、土星、木星、火星、
そして太陽の神託があったことを記している。
 
土星、木星、火星の秘儀参入者は、その秘密を
「上からの啓示」として受け取り、
それを「比喩の中で」語らなければならなかったのに対して、
ブルカン星、水星、金星の秘儀参入者は、その秘密を
「自分自身の思考形式」で受け取ることができ、
それを「観念」で伝達することができたという。
 
「日の神の系図の上にのせられるためには、天皇霊という名前の霊魂が必要であった」
というのは、太陽神託に関係しているのかもしれない。
それはおそらく「キリスト」衝動を受け入れるための前段階の神託であり、
古代において蘇我氏が仏教を導入しようとしたというのも、
そこに絡めて考えてみると面白い。
そして、聖徳太子は、厩戸皇子と呼ばれ、和をもって尊しとした。
その「和」を「むすび」の比喩としてとらえてみるのも面白い。
 
日の神、天照大神ーー天皇霊ーー太陽神託の秘儀参入者。
 
そして、日本にはさまざまなかたちの神社があり、
さまざまな神々がそこには祀られている。
そこに祀られているのは、かつてあった
さまざまな神託と関連したものなのかもしれない。
 


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