風のメモワール87

風間杜夫と娘たちの四季


2008.10.6

古書店で、松岡正剛の千夜千冊1263夜(2008.9.25)で紹介されていた
足立巻一の『やちまた』(本居宣長の息子本居春庭の話)を探して いたら、
(これについては、おそらくしばらく後に紹介することになるかもしれない)
その上下巻の上巻のみしかみつからず、ついでにうろついていたら、
風間杜夫の『本当のことを言おうか』(角川文庫/昭和59年発行)を見つけた。

風間杜夫をはじめて知ったのは、高校3年の終わりの頃、
テレビドラマ『娘たちの四季』に出演したのを見たときだが、
この本にその思い出話が載っていたのを懐かしく読んだ。

大学で、なんとなく演劇部に少しだけ所属していたりしたのは、
この風間杜夫の影響が大きくて、そのおかげで、
つかこうへい、唐十郎、別役実といった存在を知ることになり、
しばらくはそうした演劇に目を奪われていた時期があったのを懐かしく思い出す。
もし、そのドラマで風間杜夫を見ていなければ
あえいうえおあお・・・とかいった発声練習などすることもなかっ たろうし、
演劇部の人たちとも知り合うこともなかったかもしれない。

それはともかく、『娘たちの四季』。
そのテレビドラマを見るきっかけになったのは
その頃わりと気に入っていた中野良子という女優が出演してたからで、
その相手役の、自閉症気味で、秋葉原の電気店に勤めながら、
鳥の絵ばかりを描いている青年が風間杜夫だった。
その頃は、自分がほとんど自滅寸前の自閉症気味の状態だったので、
とくに感情移入してしまったところがあったのだろう。

『本当のことを言おうか』から少しメモ。
懐かしくて、その当時のいろんなことが思い出されてくる。
その映像がないかと調べてみたのだけれど、今のところ見つかって
いない。

  「娘たちの四季」って中野良子が主演で四人の娘のそれぞれの恋愛とかを
  描いているわけ。中野良子の恋人役が俺で、夏圭子の恋人役が根津甚八で。
  根津さんもこれがテレビドラマのデビュー作で、カッコよかったなあ、台
  本、風呂敷に包んで持って歩いていた。
   要するに俺の役は自閉症気味というか、人と会話できないわけ、人の目
  も見られないし、それでほとんど口開かないわけ。それで秋葉原の電気店
  に勤めていて、休みの日に動物園に行っては鳥の絵ばっかり描 いている。
  ・・・
   いつもそういうふうに鳥と対話してたのが、なぜか中野良子と心を開い
  て話すようになる。中野良子もなんか恋愛に傷ついて秋葉原 電気店に勤
  めていて。そしてだんだん絵が認められるようになって、だん だん世に出
  ていくわけ。でもその人はあなたがいなければダメだみたいな、いいドラ
  マだったよ、あれは。名作だぜ。
  ・・・
   とにかく俺、この「娘たちの四季」の役がすごく好きだった の。それが
  その頃の俺によくあっていたわけ、心境としてもね。もう俺の性格という
  か、心境にピッタリだったからね。
   自閉症とかって知らないけどさ、自分の中で空転しちゃうんだよね、空
  回りしちゃうっていうか。言葉を発することが相手に対してどういう印象
  を与えるか、その自分のはいた言葉に自意識過剰になるわけね。

この役をやっている風間杜夫を見て、
自閉症気味で、言葉を出すのがとてもつらかった自分も、
なんとか外に開いていかなくちゃ、ということを思うようになって、
ヒッチハイクをしたり、演劇部に入ったりした・・・わけで、
今思い出しても、なんかずいぶん頑張っていた自分がいたなあととても懐かしい。

今でも、ぼくはおそらく(自閉とはいえないだろうけど)超内向の ほうで、
だからこそ、今のような人とたくさん会って話をしたり
説得したりしなければならないような、
自分の性格とは矛盾するような仕事をしているのだということがわかる。
でも、それがなんとか破綻しないでいられるのも、
ある意味、「娘たちの四季」の風間杜夫のおかげだといえるのかもしれない。