風のメモワール77

ニコチアナ


2008.8.27

タバコをめぐる科学的かつ魔術的物語
川端裕人『ニコチアナ』(角川文庫)が大変面白く、
あらためて喫煙について考えるきっかけを持てた。

「ニコチアナ」というのはナス科タバコ属の総称。
タバコに含まれるアルカロイドの「ニコチン」は、
タバコ種の栽培・研究をしたフランスの外交官で
ポルトガル大使の「ジャン・ニコ」に由来。
その名にちなんで、タバコ種の草が「ニコチアナ」と名づけられたという。

タバコがナス科というのは知らなかったが、
ジャガイモ、トマト、トウガラシなども
タバコと同じナス科で、もちろん南米の原産。
なんだか、南米から伝わってきたものというのは
一癖も二癖もあるようなものが多いようだ。

タバコが日本に伝わったのは、室町時代の終わり頃。
芥川龍之介の『煙草と悪魔』という小説にもあるように、
煙草は悪魔が持ってきた、ということもいわれたりする。

さて、昨今、喫煙者には厳しい状況になってきていて、
ぼくの職場でも全館禁煙ということになっている。
ぼくは喫煙の習慣をもたないので、
副流煙を吸わなくても済む機会が飛躍的に増え、
大変快適になってきて喜ばしいのだけれど、
まだまだ多い喫煙者にとっては、
かぎられた喫煙場所でこそこそすぱすぱやらざるをえないようで、
なんだかあわれな感じもする。
いっしょに仕事をしている人も喫煙者がまだまだ多いので、
定期的に「ちょっと」といって喫煙場所を探して席を外し、
しばらくして返ってくるようなシーンも多い。
(今も隣の席の人が、煙草を吸って帰ってきて、少し煙草の匂いをさせている)
まあ、規則で喫煙させないようにするというのは
はなはだ不自由というか、本来そんなことをしないほうがいいのだけれど、
人に迷惑をかけない自由な態度がとれないというのが
そもそもは問題なので、半ばは自業自得だということもできる。
それと、仕事でも喫煙者のほうがその時間を一日に何度もとるわけで、
勤務時間そのものの規定も喫煙時間を労働時間から外すことなども
検討してはどうか、とか厭味なことを考えたりもできる。
(それとも、一種の通院時間としてとらえるとか)

まあ、合法的にせよドラッグに間違いはないので
禁断症状の一種であることはたしかなので、
煙草は悪魔が持ってきたというのもあながち間違いではないだろうし、
ある種、古代的ななにかを蘇らせるがゆえに、
時季はずれの善ということもできるのかもしれない。

そういえば、シュタイナーは、ジャガイモやトマトをよく言わないが、
(過去の霊性に関係しているということかのかもしれない。
その意味では、日本の海草類や魚介類の一部も
シュタイナー的には問題があるということにもなるかもしれないが、
これは、あくまでも西洋が基準になっているということなので、よくわからない)
いわゆる「シュタイナー教育」は、
ヴァルドルフ・アストリア煙草工場の社長、エミール・モルトから
その労働者たちの子どもたちのための学校をつくるために
シュタイナーの指導を依頼したところからはじまっているというのが
なんだか皮肉なところである。