風のメモワール76

にほんのうた


2008.8.21

坂本龍一プロデュースによる「にほんのうた」という
CDがでていたのを先日知った。
昨年発売されたもののようで「第一集」とあり、
つい先日「第二集」が発売されたところである。

いわゆる「歌曲」風の歌い方ではなく、
J-POP調のもので、
いろんな「アーティスト」が参加している。

ここでご紹介するのは「第一集」。
1曲目は「三波春夫+コーネリアス」の「赤とんぼ」、
2曲目は「キリンジ」の「埴生の宿」、
3曲目は「坂本龍一+中谷美紀」の「ちいさい秋みつけた」、
と続き、全10曲が収められている。

4曲目には、「くめさゆり」の「旅愁」があって、
「くめさゆり」というのは知らないなあと思って
調べてみると、久保田早紀のことらしい。
あの「異邦人」の久保田早紀。
現在は、クリスチャンの音楽伝道者として活動しているとのこと。

ついでなので、収められている曲を紹介しておきたい。
5曲目、「あがた森魚」の「森の小人」、
6曲目、「大貫妙子」の「この道」、
7曲目、「キセル」の「かなりや」、
8曲目、「八代亜紀」の「証城寺の狸囃子」、
9曲目、「高田漣」の「赤とんぼ」、
10曲目、「ヤン富田(ドゥービーズ)」の「やぎさんゆうびん」、
そして、11曲目、「カヒミ・カリィ+大友良英」の「からたちの花」。

どの曲もとてもユニークなアレンジがされていて楽しめる。
なかでいちばん感情移入してしまったのは
坂本龍一+中谷美紀の「ちいさい秋みつけた」。
つぶやくように歌う中谷美紀の声がなかなか(なぜか泣かせる)。
同じく、つぶやくように歌っている
カヒミ・カリィ+大友良英の「からたちの花」のほうは、
ほとんど消えてしまいそうなつぶやきのカヒミ・カリィが
ちょっとやりすぎかとも思うのだけれど、すごいといえばすごい。
超ウィスパーボイスの「からたちの花」というのはちょっと想像を超えていた。

ところで、添付されているブックレットの最初にある
ジブリの鈴木敏夫さんのことばがおもしろかったので、メモしておきたい。

   実は「ゲド戦記」という作品に挿入歌が必要になった時、「新しい唱歌を
  つくりたい」と思っていた。何しろ、ヒット曲といえば、歌われるのは男女
  のことばかり。いったいどうしてこんなに歌の間口が狭くなってしまったん
  だろう。そうしてできた「テルーの唄」という挿入歌は、人間が根源的に持
  つ孤独を、「間」を大切にして歌ってもらった。「耳をすませば」で「カン
  トリーロード」を中学生に和訳させ、歌ってもらったのも同じ発想だ。スタ
  ジオジブリの作品には、そうやって時代の流れに逆らってきた側面がある。
   ところで、唱歌は古くから日本にあったわけではない。学校の授業として
  制定されたのは明治初期だが、「蛍の光」や「仰げば尊し」がスコットラン
  ド民謡だったように、多くが外国の曲に歌詞をつけたものだった。なぜ日本
  で受け入れられたのか正確なところはわからないが、曲がもっている「間」
  が、日本人の琴線に触れたということはあるかもしれない。

ちょうど、河合隼雄と中沢新一の対談集『ブッダの夢』(朝日新聞社)を
読み返していたところ、山田耕筰の歌曲の
興味深い話がでていたのでこれもメモしておくことにしたい。
ちなみに、上記の11曲のうち、山田耕筰の作曲によるものは
「赤とんぼ」「この道」「からたちの花」。
(北原白秋の詩は「この道」と「からたちの花」)

  中沢(…)山田耕筰がヨーロッパに留学に行きます。ドイツで音楽を勉強す
  る。ドイツ人のあの論理的な作曲の技法を勉強してきて、だけど、どうもピ
  ンときてないんです。どうも俺のかかえているものと違うぞというふうに思
  って。で、モスクワにへやってきて、そこで、たまたまスクリャービンの音
  楽を聴くわけです。これが来たるべき音楽だってびっくりするわけです。
  (・・・)
  あれば、論理的な法則もない。まるで沸き立つような、聖霊の音楽なんです
  ね。それを聴いた時、あ、これなんだっていうので彼は感動して日本へ帰っ
  てきて、北原白秋に会います。彼らの共通点は、北方への関心というのか、
  ロシアへの関心みたいなものが濃厚にある。♪雪の降る夜はたのしいペチカ
  ……。北原白秋の抱えている生命力と、それをねじ伏せようとするモダニズ
  ムの感覚というのがせめぎあって、巨大な矛盾をつくって、山田耕筰の矛盾
  とが結合して、日本人の歌曲が生まれるわけです。