風のメモワール35

冬の旅


2008.1.2

梅津時比古『冬の旅/24の象徴の森へ』(東京書籍/2007.11.29.発行)が
気になっていたので、正月を利用して読んでみようと思っていた。
梅津時比古には『フェルメールの音』『天から音が舞い降りてくるとき』
『<セロ弾きのゴーシュ>の音楽論』『<ゴーシュ>という名前』などの
音楽に関する著書があり、その影響で聴くことになった音楽も多くある。

『冬の旅』というのは、いうまでもなく
シューベルト/ミューラーによる歌曲の名作である。
ドイツ・リートのなかでも、やはり一度はちゃんと聴いてみたい曲のひとつ。

とはいえ、ぼくがちゃんとこの曲を聴いたのは十数年前のことにすぎなくて、
それまではリートそのもののことが今以上によく分かっていなかったし、
ちゃんと聴く機会も持てなかった。
大学の頃、ドイツ語をやっていたのもあって、
その関係で少しは耳にする機会もあったのだけれど、
その頃は関心を持てるほどの耳も感受性も欠如していたわけである。

しかし、ドイツ語をほんの少しかじっていたことが
その後のぼくにとってはずいぶん恵みになっている。
シュタイナーやバッハやゲーテ、ノヴァーリス、こうしたリートなど、
ドイツ語がまったくわからなければ、今ほどの理解さえも
得ることはまずできなかったはずである。

面白いことに、大学の頃の専門の教官はゲーテの自然学を
専門にしていたということで(趣味はあわなかったが)
今から考えると、その頃のぼくにはわからなかったとしても、
その頃からずいぶんいろんなヒントがあったことがわかる。
人生というのは謎に満ちているが、
その謎を解こうとさえすれば、そして長い目でみることさえできれば、
ずいぶんとさまざまな導きがあるものだというのを実感させられることが多い。

さて、『冬の旅』である。
せっかくなので、本を読みながら、
久しぶりに音楽を聴いてみることにした。

最近でているボストリッジ/内田光子のものはまだ手元にないので、
1996年3月録音のプレガルディエン(テノール)/シュタイアー(フォル テピアノ)の
いちばんお気に入りのCDをCDの棚から探し出してきて聴くことに。

幸い、ぼくがこの『冬の旅』をちゃんと聴こうと思った頃、
フィッシャーディスカウのものに続いて聴いたのが
発売されたばかりのこのCDで、それ以来、ぼくの定番になっている。
梅津時比古も、執筆中にはこのCDを聴き続けていたそうである。
たしかに副題に「24の象徴の森へ」とあるように、
『冬の旅』を聴くということを、
さまざまな象徴の森を歩むこととしてとらえることもできる。
とはいえ、聴き方はひとそれぞれ。
この名作を久しぶりにじっくりと聴きながら
さまざまな発見や感動を得ることができたのが、なによりもうれしい。

今回印象に特に残ったのは、
第21曲のDas Wirthaus宿屋と第24曲のDer Leiermannだった。
本書では、「ニヒリズムの克服」とかいう「解説」があったが、
そういえば、ぼくのなかでもある意味、
学生の頃から、「ニヒリズムの克服」というのは、
最初の大きな課題でもあったと思える。

最後の歌詞(梅津時比古訳)が印象的である。

  風変わりな老人よ
  お前と一緒に行こうか?
  僕の歌に合わせて
  お前のライアーを回してくれるかい?

この終曲を聴きながら、
自分が風変わりな老人でもあり
また歌を歌う旅人でもあるようなそんな気持ちになった。
そういえば、この「神秘学遊戯団」というのも
ぼくが自分でライアーを回しながら
自分で歌っているようなものなのかもしれない。