風のメモワール18

アニメ『精霊の守り人』と骨太


2007.9.19

   「今の時代って、プロ野球とかを見ていてもそうだけど、骨太な
   勝負とか地道な努力とか、そういうものがおろそかにされている
   気がするんですよね。全部が派手にショーアップされて、そのな
   かでうわべだけ派手ならなんとかだませるみたいな風潮がある。
   エンターテインメント業界にいる身として、そこに一石を投じた
   いという思いはある。それはアニメの現場に関しても同じで、現
   場を育てるって意味でも、おだてたり持ち上げたりするだけじゃ
   なく。骨太な勝負をしていかなければならない時期だという気が
   するんです」
   (石川光之 「Invitation8月号」所収/文=山下卓
    プロダクションI.G.が放つ「精霊の守り人」の凄み より)

NHK-BS2で、上岡菜穂子原作の『精霊の守り人』が
アニメ化されて放映されている。
全26話だそうだが、現在のところ、第24話まで終了している。
プロダクションI.G.といえば、
名作『イノセンス』などを手がけた制作会社である。
その代表が、上記引用の石川光之。
『精霊の守り人』の監督は、神山健治が担当している。

上岡菜穂子の『精霊の守り人』が名作なのはいうまでもないし、
このアニメのクオリティが高く、とても楽しめるのもいうまでもないが、
ここで書こうとしているのは、上記の引用にあるような「骨太」のことである。

「美しい国」の安倍首相が、
土俵の上で「はっけよい!」といったとたんに「や〜めた」といったり、
横綱の朝青龍が釈明もできないほどに心の病を抱えたままだったり、と
なんかこういう類のことが起きているのはとても象徴的なことのように見える。
見せかけの威勢の良さやきれいごとと
ある種の脆弱さが背中合わせになっているような印象がある。

パフォーマンス性の高いものがかならずしも
その内に脆弱さをもっているというわけではないけれど、
パフォーマンス性を戦略的に道具として使えるだけの
内実と強度と柔軟さを持たないとき
おもいがけないほどの脆さがどこかで露呈してくるのだろう。

「骨太」というのは、そういう意味でいえば、
内実と強度と柔軟さをあわせもっているということかもしれない。
たとえば、どんなに強気でいても、
その強気が発揮できないベクトルの力が加わったとき、
コロリと転がってしまうことになる。

さて、そうした「骨太」は、
世の中でいちばんめだっていて、
「派手にショーアップされ」たりするところでは、見られにくい。
だれにでもわかるような類に卑小化され
稚拙にされたものだったりするものでなければ、
多くの「受け手」を獲得することがむずかしいからである。
そのためには、「受け手」の需要に迎合することで
刹那的な「結果」を得ることがどうしても必要なのである。

そんななかで、こうしたアニメ『精霊の守り人』のような、
「骨太」な職人芸とチャレンジを見ることができるのは、
とても心うれしく、たのもしい。