風のメモワール138
『エスクワイア』の休刊
2009.5.26

雑誌の廃刊が目立っている。
『エスクワイア』もこの5月に出た7月号で、
その22年の歴史を終えるという。
ときおり気に入った特集くらいしか、
手にとって読んだりはしなかったけれど。

宮台真司の『日本の論点』では、
こうした雑誌の廃刊は場当たり的なものだという。

   二〇〇八年だけでも多くの雑誌が廃刊されました。消えてせいせい
  したと思うような雑誌は一つもありません。枯れ木も山の賑わいとい
  いますが、論壇も文壇も趣味情報の世界も多様であった方が良いし、
  とりわけ皆が一緒に乗れるプラットフォームがたくさんあった方が良
  いからです。
  (中略)
   社会の変化に適応してプラットフォームが盛衰するのは「仕方ない」。
  問題は、社会の変化が建設的なソーシャルデザインに基づくものでな
  く、場当たり的な右往左往に引きずられた結果だと感じられるのです。
  (宮台真司『日本の論点』幻冬舎新書122/2009.4.15.発行/P.42-43)

枯れ木も山の賑わい。
雑誌を雑木林のようなイメージでとらえるとするならば、
そうした多様性が、失われてしまうということになるだろうか。
もう椎の実とか商品にならない樹とかより、
もっと売れるものを植えた方がいいんじゃないか、とか。
そういえば、小さい頃、椎の実を煎って食べるのが好きだった。
今、椎の実を食べるっていっても、ぴんとこない人のほうが多いんだろう。
そもそも椎の実をイメージすることさえむずかしいかもしれない。
そのように、雑誌が失われ、失われてしまったものは、
ノスタルジーの彼方へと遠ざかっていく。

『エスクワイア』の最後の特集は、「未来に伝えたい100のこと」。
編集長・友永文博さんのメッセージはこうだ。

   「100年の1度の大恐慌」という陳腐な言葉を言い訳に、前に進む
  ことをあきらめてはいないだろうか? この問い掛けは、我々自身への
  戒めでもあります。みんなが少しでも積極的な気持ちを持ち得れば、目
  の前の世界は、必ずプラスの方へと向かうはずです。本号をお読みいた
  だき、未来に対して希望的ビジョンを少しでもお持ちいただけたら幸い
  です。さらに願わくば、最後のページに至るまで楽しんでいただけたら、
  これ以上に光栄なことはありません。
   ちなみに表紙のロゴの上にある“Stay hungry. Stay foolish”(ハン
  グリーであれ。馬鹿であれ)は、スティーヴ・ジョブズの有名なスピー
  チでも引用された言葉で、伝説の雑誌『Whole Earth Catalog』(1974
  年9月発行号)に書かれていたメッセージです。私たちは、さらにこう
  続けたいと思います。「そして紳士たれ(Stay“Esquire”!)」。

「100年の1度の大恐慌」とかいうことで、
たしかに、仕事のほうはけっこうキツくなっているわけだけれど、
そういうときの「変化」を「場当たり的」に体験するのではなく、
だからこそ見えてくるものをしっかり見ることと、
自分が向かっていきたいビジョンを創造化することは
決して忘れてはならない、というのが基本だろうと思う。

そうそう、この『神秘学遊戯団』ももう少しで12周年。
ネットの世界では、そこそこ長寿なのかもしれない。
「プラットフォーム」といえるほどの場ではないけれど、
まあ、こういう場も雑木林に一本くらい生えていてもいいだろうという感じで、
とくにスポンサードで成り立っているわけでもないので、
廃刊、休刊という予定は今のところなくて、
まあ、ぼちぼち、風にゆられながらも少しずつ伸びていければいいかなと思っている。