風のメモワール131
パセリ、セージ、ローズマリー、タイム
2009.4.13

サイモン&ガーファンクルの「スカボロ・フェア/詠唱」でリフレインされる
「パセリ、セージ、ローズマリー、アンド、タイム」。
繰り返し聴いていたはずの歌詞をはじめて「読んだ」のは
森達也の『ぼくの歌・みんなの歌』がきっかけだった。
いわれてみれば当然のごとく、これはベトナム戦争への反戦の歌でもあるが、
「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」という
ポピュラーなハーブの名前を重ねたフレーズはよく意味がわからない。
森達也はおまじないようなものだろうと書いていて、気になっていた。

おまじない、呪文・・・。
そんな感じのフレーズなんだろうなと思っていたところ、
たまたまマザーグースのなかにある「恋人」に
この「パセリ・セージ・ローズマリー・タイム」がでてくることを知る。
マザーグースの「恋人」は、
恋人に捨てられた若者が彼女を取りもどすために
不可能な仕事を成し遂げるように、と唱われる。
そして「パセリ・セージ・ローズマリー・タイム」というリフレインは
そのための呪文である。

この歌は、吟遊詩人によるイギリスの伝統的なバラッドでもあるようで、
16〜17世紀に「エルフェンナイト」という古いバラッドが作り変えられ、
そのマザーグースにあるような形になり、
それに「詠唱」を加えてポールサイモンが「スカボロ・フェア/詠唱」として、
反戦的な意味合いを同時にもたせた。

調べてみると、
「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」というフレーズは、
かつてハーブ売りが使っていた口上でもあったようで、
おそらくこの口上でハーブの効能を唱ったのだろうと思われる。
また、「パセリ・セージ・ローズマリー・タイム」というハーブは、
死とつながりのあるハーブであり、その呪文は、
妖精に対するお守りとして効き目があったのだそうである。
妖精の国にいってしまわないようにする。

だから、サイモン&ガーファンクルの「スカボロ・フェア」では、
日常の世界ではない異界である戦争に赴く兵士たちを
死から守る呪文でもあったということにもなる。

ちなみに、この歌の舞台となるスカボローは、中世末期の
現ノース・ヨークシャー地方にある重要な交易上。
8月15日にはじまる45日間にもわたりスカボローの市へは
イギリス中や大陸からも交易をもとめて集まったという。

  Are you going to Scarborough Fair?
  Parsley, sage, rosemary and thyme,
  Remember me to one who lives there,
  For she once was a true love of mine.