サイモン&ガーファンクルの「スカボロ・フェア/詠唱」でリフレインされる 
        「パセリ、セージ、ローズマリー、アンド、タイム」。 
        繰り返し聴いていたはずの歌詞をはじめて「読んだ」のは 
        森達也の『ぼくの歌・みんなの歌』がきっかけだった。 
        いわれてみれば当然のごとく、これはベトナム戦争への反戦の歌でもあるが、 
        「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」という 
        ポピュラーなハーブの名前を重ねたフレーズはよく意味がわからない。 
        森達也はおまじないようなものだろうと書いていて、気になっていた。 
      おまじない、呪文・・・。 
        そんな感じのフレーズなんだろうなと思っていたところ、 
        たまたまマザーグースのなかにある「恋人」に 
        この「パセリ・セージ・ローズマリー・タイム」がでてくることを知る。 
        マザーグースの「恋人」は、 
        恋人に捨てられた若者が彼女を取りもどすために 
        不可能な仕事を成し遂げるように、と唱われる。 
        そして「パセリ・セージ・ローズマリー・タイム」というリフレインは 
        そのための呪文である。 
      この歌は、吟遊詩人によるイギリスの伝統的なバラッドでもあるようで、 
        16〜17世紀に「エルフェンナイト」という古いバラッドが作り変えられ、 
        そのマザーグースにあるような形になり、 
        それに「詠唱」を加えてポールサイモンが「スカボロ・フェア/詠唱」として、 
        反戦的な意味合いを同時にもたせた。 
      調べてみると、 
        「パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム」というフレーズは、 
        かつてハーブ売りが使っていた口上でもあったようで、 
        おそらくこの口上でハーブの効能を唱ったのだろうと思われる。 
        また、「パセリ・セージ・ローズマリー・タイム」というハーブは、 
        死とつながりのあるハーブであり、その呪文は、 
        妖精に対するお守りとして効き目があったのだそうである。 
        妖精の国にいってしまわないようにする。 
      だから、サイモン&ガーファンクルの「スカボロ・フェア」では、 
        日常の世界ではない異界である戦争に赴く兵士たちを 
        死から守る呪文でもあったということにもなる。 
      ちなみに、この歌の舞台となるスカボローは、中世末期の 
        現ノース・ヨークシャー地方にある重要な交易上。 
        8月15日にはじまる45日間にもわたりスカボローの市へは 
        イギリス中や大陸からも交易をもとめて集まったという。 
        Are you going to Scarborough Fair? 
          Parsley, sage, rosemary and thyme, 
          Remember me to one who lives there, 
      For she once was a true love of mine.  |