風のメモワール115

チェ・ゲバラとオバマ/世界を変えること


2009.1.23

『チェ28歳の革命』、『チェ39歳別れの手紙』という映画が
2部作として連続で公開される。
「かつて世界を本気で変えようとした男がいた」
というのがPRのヘッドコピーになっている。

チェ・ゲバラの亡くなったのが1967年、39歳のときだから
今生きていれば80歳になる。
カストロもまだ生きている、たぶんチェよりも少し上。

そのカストロが、黒人初のアメリカ大統領になったオバマを
「とても誠実で、信念を持っている」と評しているらしい。
オバマはまだ47歳。

ちょうど、ほぼ日刊イトイ新聞でも
冷泉彰彦+糸井重里
「オバマ大統領の就任演説を観ながら
冷泉彰彦さんに、なにかと訊く。」
という音声番組が企画され、音声データが掲載されている。
とても面白い。
http://www.1101.com/reizei_akihiko/index.html
(音声データは1月30日午前11時まで聞くことができるが、
後日、テキストデータでも連載予定とのこと=jオバマは、
「まれにみるスピ ーチの名手」とされているらしい。
『オバマ演説集』(朝日新聞社)というCD付の本がでているので
ミーハーなのでつい買って聴いている。

その本の冒頭には「オバマ流スピーチのひみつを探る」というのがあって
その「ひみつ」には3つあるという。
まず、「実演」(enactment)と呼ばれるテクニックで
「話している内容の証明として話し手自身が機能するような技巧」だそうである。
たとえば、こういうところ。

 黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン系のアメリカも
 アジア系のアメリカもありはしないーーあるのはアメリカ合衆国なのだ

次に、「再現」(repetition)の多用。
「同じ構造の文を繰り返すことで、リズムを整え、
聴衆に内容を理解しやすくする効果」をもたせること。
たとえば、つぎのように。

 世界は何を見るでしょう?われわれは世界に何を伝えるのでしょう?
 われわれは何を示すのでしょう?
 (・・・)
 われわれはこう言います、こう願います、こう信じます。

3つめは、「イデオグラフ」(ideograph)というテクニック。
「覚えやすくインパクトのある言葉やフレーズを、
政治的スローガンとして用いる技巧」とのこと。
おばまは、「希望」(hope)や「変化」(change)といった
シンプルなスローガンを繰り返しながら、ビジョンや政策を
スピーチしているという。

オバマが、いってみれば、「歴史」に登場したといえるのは
2004年の民主党大会基調演説「大いなる希望」で
そのときには、上院議員でさえなかったというのがちょっとびっくりで、
その演説後、上院議員に初当選し、ヒラリーとの指名争いに勝ち、
そしてマケインに勝利することになる。
その間、4年。
その歴史的な演説や指名受諾演説「アメリカの約束」、
勝利演説「アメリカに変化が訪れた」が、このCD付本に収められているが、
たしかに上の3つの手法が効果的に生かされている。

けれど、それはあくまでもテクニックであって、
そのテクニックだけがすべてではない。
今後オバマがどうなっていくのかわからないけれど、
オバマの演説には、アメリカの、というか、
世界の今とこれからが「希望」として、強くシンボライズされているように聞こえる。
しかし、ほぼ日の上記の対談で語られていたように、
むしろ期待をいだかせるのは、オバマの演説そのものよりも、
大統領就任演説前に、ひどく緊張しきっていたことだというのがうなずける。
閣僚たちはすでに政治家スマイルできちんと演出していたのに、
オバマはほとんど素の顔をしていたのだという。
むしろ、そうした言葉にならない部分に
糸井重里も冷泉彰彦も感動していたようである。
これは、なにか、今までと違う・・・・という感触というか。

さて、チェ・ゲバラは
「世界を本気で変えようとした男」であり
革命にその身を投じて死んでいったが、
オバマ流の、ある意味、やはり「革命」は
どんなかたちですすんでいくのだろうか。
オバマはアメリカを世界を「本気で変えようと」しているだろうか。

その時代にはその時代なりに求められるカリスマのかたちがあるように思える。
さて、日本の政治家をみると、今の首相は漢字テストの麻生首相である。
その前は、きわめて官僚的であった福田総理、その前が「美しい国」の安部総理。
ブッシュ大統領はひどかったが、今度のオバマは前がひどかっただけに、
よく見えるだけのところもあるかもしれないが、
日本でそれなりに、現代を代表する顔の政治家はどこにいるのだろうか。
そういう願いを込めて、昨年のテレビドラマ「チェンジ」はつくられたのだろうが、
どうなっていくのか、むしろ、あまりの未知数の日本での動きを
しっかり見ていくと面白いかもしれない。

それまでは、とりあえず、今、オバマに注目し、
かつての革命家、チェ・ゲバラについて見てみたいと思っている。
日本でチェ・ゲバラといえば戸井十月で、ちょうど
『ゲバラ最期の時』(集英社)というのがでてきたので面白く読んでいる。
そういえば、ゲバラについて詳しくは知らないのだった。
ちょうどいい機会である。