風のメモワール106

橋本治と内田樹


2008.12.2

橋本治が内田樹と対談。
書名もそのまんまの
『橋本治と内田樹』(筑摩書房/2008.11.25発行)
内容は、対談というよりも
むしろ、内田樹の橋本治へのインタビューだろうか。

意外や、内田樹は
『桃尻娘』以来の橋本治ファンだということで、
「ジョン・レノンと『デュエット』のアルバムを
出せていただいたような気分」という表現をしていたりもする。
対談のなかでは随所に(笑)(爆笑)という表記も見られる。
ほかの人との対談では内田樹は自分のペースで進めている印象が強いが、
ここでは、橋本治の返答にとまどったりしながら、
なおかつそれを心から楽しんでいるところがある。
そして対談の最後に、かつて読んだ『デビッド100コラム』という本に
「サインをしていただきたいんですけど」と頼むシーンまであったりする。

そういう対話であるだけに、
ぼくにとってもこれまで大変わかりにくい作家のひとりでもあった
橋本治という人のことが少しだけではあるがわかったようにも思う。
橋本治の作品に対する書評や批評というのは、
そのわかりにくさ、ジャンルわけのし難さなどから、
ほとんどこれまでなされていなかったということだけれど、
この対談はある種、内田樹の橋本治論としても読むことができる。
内田樹だからこそ、ここまで橋本治という人を
引き出すことができたのだろうと思う。

でも、「あとがき」で橋本治は
「こんなどうでもいい本、誰が関心を持つんだろう?」といい
「よくもまア、こんなどうでもいい駄々っ子みたいな人間の
相手をして下さって」と内田樹に陳謝していたりもする。
たしかに、橋本治は橋本治のキャラをかなり奔放に
気分良く出しているという気はするが、
それがこれだけの濃さになっているというところがスゴイ。

個人的にいえば、今年読んだ本のなかでも
お気に入りのかなりに上位にランクインしそうな面白い一冊だった。
なにより、これを読んで、橋本治という人のほかにはまったくない個性が
すごく好きになったということだけはいえる。
そして今回得ることのできた視点で
その作品に実際に数多くあたってみたいと思っている。
これまでに読んだことのある作品もまた違ってみえるだろうし、
なにより、敷居の高かった『窯変源氏物語』などにもあたってみたい。
やはりそういう気にさせてくれる対談というのはすぐれているということなのだろう。