2003

 

トム・ウェイツをききながら


2003.3.6

トム・ウェイツはよい。
まっすぐでないのがよい。
最大公約数でないのがよい。
みんながおんなじになったとしても
けっしてトム・ウェイツはトム・ウェイツでなくならない。
 
ひさしぶりで、トム・ウェイツをきいた。
「アリス」。
なんということ。
ここしばらくなにかがききたかった。
けれどそれが何なのかわからなかった。
これだったのだ。
この声。
 
ぼくにはまったくだせない声だけれど、
ぼくのふかいふかいところから、
ときおりぼくに呼びかけてくる声。
 
涙がでてきた。
じんわりじんわり涙がにじんできた。
 
「アリス」のライナーノーツの最初に、
こんなトム・ウェイツの語りが紹介されていた。
森にある2本の木についてのお話。
 
       「1本の木はいびつに曲がってて、もう1本は真っすぐしてた。
        真っすぐな木は、いつも曲がった木を見るたびに、こう言うんだ
        『自分の姿を見てみなよ。そんな不格好な君のことなんて、誰も
        好きじゃないし、見てもくれないさ』。曲がった木は、とても傷
        ついた。そんなある日、木こりたちがやってきた。そして、真っ
        すぐな木を1本残らず切りたおしたんだ。でも、いまでも曲がっ
        た木はその森に立ってる。毎日、生き生きとさらに曲がりを強め
        て」
        そのいびつに曲がった木こそが、トム・ウェイツだといえた。
 
トム・ウェイツの声はまさにほんとうの声で、
垂れ流されるうそだらけの声とは違う。
きれいなところだけ編集された声とも違う。
そのトム・ウェイツは奥さんとすごく仲がいい。
そういうトム・ウェイツのいびつに曲がった木がいいのだ。
 
ところで、今日、会うと必ずトム・ウェイツの話がでる
CMプロダクションの仲間と仕事でひさしぶりにあったところ、
これはトム・ウェイツじゃないけれど、
高野寛や堂島孝平などをひきつれた小坂忠のコンサートが
4月25日に広島のクラブクアトロである情報をきいた。
これは行かねばならぬ。
 
ぼくのなかの音楽がときに
沈滞してきて死にそうになるときがあるけれど、
世の中捨てたもんじゃないと思えるときもある。
トム・ウェイツをきくときもそうだし、
小坂忠のコンサートがあると知ったときもそうだ。
 
ぼくのなかのトム・ウェイツが歌っている。
いびつに曲がった木の声が歌っている。
にじんだ涙がじーんとふるえながら歌っている。
 
 


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