戸川純/非日常と日常の往還としての


2002.5.2

久しぶりに戸川純のアルバムを聴きながら、
とくに80年代のぼくにとっての戸川純のもっていた
ある種特別ななにかについてとらえなおしてみようとしている。
 
手元にあるのは、戸川純のソロとゲルニカのアルバム、
そして、ヤプーズの「ヤプーズ計画」あたりまで。
それ以降はあまり聴いていない。
そういう意味でも、戸川純はぼくの80年代だ。
 
調べてみると、ちょうど昨年末、
ソロ、ゲルニカ、ヤプーズのアルバムからの
「ベストコレクション」が2枚組で発売されたところ。
 
■戸川純 TWIN VERY BEST COLLECTION
 TECN-35761〜35762 2001.12.19.
 
あらためて、その声の力に圧倒されている。
その、非日常にいきなり否応なく連れていってしまう力。
その力は、ひとつの方向からのものではなく、
不意打ちのようにさまざまな方向からやってくる。
 
80年代は、ぼくにとってとりあえず食うために働きはじめた時代。
その食うために働くということは、
ぼくにとっては、いまだにかなりな非日常なのだけれど、
それが日常化してしまうことによって、
ぼくという存在を脅かし続けていた時代。
 
日常というのは、ふつうは、日常ゆえに日常というか、
それがきわめて「そういうものだ」として自動化されていて、
それを人は「現実」と呼んでいたりもする。
しかし、ほんとうのところ、日常というのは
決してそんなにあたりまえのように存在するものではない。
その日常という「顔」の裏には恐ろしいまでの深淵が穴を開けている。
 
実際のところ、これは脳というハードの機能として
たとえば海馬あたりが、現実の裂け目をうまくごまかしながら、
「そういうものだ」という日常的な現実を演出しているということでもあって、
実際の世界というのは、いろんなところで「裂け目」があるというか、
少なくとも、ふつう現実だと思い込んでいるものは、
ある特定のストーリーのなかで一貫性があるかのように
思い込まされているものでしかない。
たしかに、人はふつう、自分が「そういうものだ」というふうに
思い込んでいる世界が実際はそうではないのだ、ということに耐えられない。
 
しかし、日常の別の顔に気づき始めると、
今度は日常というものの恐ろしい力の前で、
自分はいかになすすべもなく立ちつくすだけであることに絶望してしまう。
故に、日常からいかに逃げ出すかということを模索しはじめるようになる。
悪くすれば、そこでぼくという存在は、
単に日常から非日常への逃避行的な存在になってしまうことになる。
 
80年代はそういう意味でぼくにとって、
日常にありながらその非日常を見、
そこで狂わないで生きていくための時代だったように思う。
そこに戸川純という存在があった。
 
戸川純の声は、非日常そのものとして
ぼくには届けられるのだけれど、
その非日常的な体験があることによって、
逆に日常という狂気を生きる力を得ることができたのではないかと思うのだ。
 
戸川純の声は、たとえば玉姫様の乱心のようにひとときの狂気があるものの、
それによって決してどこかにただ逃避してしまうものではなく、
どこか異次元の世界から再び還ってくるようにぼくにはきこえる。
「玉姫様」のアルバムには「隣の印度人」というのがあるが
(残念ながら、上記のベストには収録されていない)
その印度人は隣にいる印度人でありながら、
隣にいる印度人ゆえにそこに非日常が現出されてくる。
しかしそのことそのものがまた日常の印度人となって帰還して現われる。
日常が非日常になりそれが同時に日常として現われる。
そうした現実という虚構=物語の孕む多次元的な側面が同時的に現われる…。
 
そういう意味で、ぼくの狂気を生き延びる道は、
日常という非日常への気づきを支えてくれるなにかであり、
そこに戸川純という希有な存在があったというわけである。
そして、もちろんそうした80年代を受けながら、
ぼくの90年代が新たな相貌を得て現われてくることになる…。
 
さて、ひょっとして、これから聴いてみようという方のために、
(とはいえ、そのほとんどは既に廃盤になっているが…)
そしてぼく自身のためにも、ディスコグラフィ・データを。
ちなみに、このデータは以下の「戸川純とYAPOOSを応援するページ」から。
http://home4.highway.ne.jp/tech/jun/index.html
 
■戸川純ソロ
・玉姫様('84.01.25)
・裏玉姫('84.04.25)
・極東慰安唱歌('85.03.25)
・好き好き大好き('85.11.28)
・東京の野蛮('87.04.25)
・昭和享年('89.12.16)
・20th Jun Togawa
 
■ゲルニカ
・改造への躍動('82.06.21)
・新世紀への運河('88.07.21)
・電離層からの眼指し('89.03.05)
 
■ヤプーズ
・ヤプーズ計画('87.12.16)
・大天使のように('88.09.21)
・YAPOOS BEST('91.05.21)
・ダイヤルYを廻せ!('91.06.07)
・Dadada ism('92.10.28)
・ヤプーズの不審な行動('95.04.21)
・HYS('95.06.21)
・CD-Y('98)
 
また、ヤプーズのNEWアルバム「霊長類ヤプーズ品目ヒト科」TKCF-77102が、
徳間ジャパンから、2002年5月22日に発売されるらしい。
また、ヤプーズの旧アルバム「ダイヤルYを廻せ」「Dadada ism」も
2002年5月25日に再発売されるということ。
 


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