SKETCH SHOW:AUDIO SPONGE


2002.9.27

■SKETCH SHOW:AUDIO SPONGE
 (2002.9.19)
 
細野晴臣と高橋幸広による<バンド>(ユニットではないという)、
SKETCH SHOWのデビュー作。
YMOのメンバー坂本龍一も参加しているようだけれどYMOではない。
そういえば、YMOは(イエロー・マジック)オーケストラだけれど、
SKETCH SHOWというのはいわゆるコント。
シャレでつくったアルバムと思いきや大傑作。
力が入っている・・・とはいえ力みが感じられるというのではない。
こんなに気持ちよく安心して聴けるのに、
そこで生まれているかのようなダイナミックな織物。
 
そういえば、安心してというか
信頼感をもって聴けるアルバムというのはそうみつからない。
ぼくにとっては、とくに細野晴臣というのは、その希有な一人で、
決して立ち止まらないのに、コケてしまわない。
たとえば、最近でた井上陽水の「カシス」にしても、
いちおう聴いておきたいと思いながらも、信頼して聴けるというのではない。
なんというか、やはくいえば、二度目を聴こうとはあまり思えなくなるというか。
 
やはり、変化生成し続けていながら、
そこにその人の音楽の理念とでもいうものが、
聴いているぼくの養分のように伝わってくるというのがいい。
これだけたくさんCDの発売されているもののほとんどは
まず耳にすることさえないものなのだけれど、
だからこそ、せっかく聴く音楽は、信頼できるものを選びたい。
もちろん、守りにまわって、耳を閉じてしまうというのではなく、
耳を開くことを楽しめるような音楽を探したいということ。
 
TOWER RECORDSのだしている「bounce」に、
このSKETCH SHOWについて、
そこで細野晴臣と高橋幸広へのインタビュー記事があって。
こんな箇所があった。
 
        ーーー変わることってすごくエネルギーが要る作業じゃないんですか?
        高橋「それがね、要らないんですよ。エネルギーを必要とするときは
        何もできない」
        細野「世の中変わっていくほうが自然なんです。変わらないのは余計な
        力を使っているわけ」
        ーー曲名に<turn>という言葉が多用されていますが、それは<変化>
        することを意図的に考えた結果なのでしょうか?
        高橋「これは、偶然と必然が一致したようなものですね。偶然って、後
        で考えたら必然であることが多いから。今回、そんな偶然はすごくたく
        さんあった」
 
たとえば、保守思想とかあるけれど、ぼくの偏見でいえば、
それは「余計な力」を使いすぎてエネルギーを使いすぎている感じがする。
音楽を聴いていてどうも停滞しているように感じてしまうときも、
たぶん変化をうまく使いこなせてないからなんじゃないか。
 
ちょうど、吉田秀和の古い音楽批評を読んでいたら、
「レコード」を聴き始めたことについていろいろ書いていたものがあった。
もちろんCDではなく、レコード。
(『一枚のレコード』中公文庫)
 
        それにしても、レコードを少しずつ注意してきくようになるうち、商売柄、
        批評が気になるようにもなった。(…)
        特にびっくりしたのは<クロイツェル・ソナタ>はだれそれの演奏に限る
        とは、<未完成交響曲>はこのレコードとか、それも十年も二十年も、時
        には三十年も昔のレコードを、いくら昔なつかしい名人の演奏があるとは
        いえ、それを後生大事唯一無二の尺度にして、その後のどんなものも受け
        つけない態度。こういうことは、演奏の何たるかをまったく知らない、ス
        ターリンよりもっと悪い最低の教条主義でしかない。(P11)
 
ただの新しいものずき、というのも困ったものだけれど、
教条主義、権威主義で過去ばかり向いているというのも、これは息苦しい。
要は、耳を育てるということと、耳をひらいておく姿勢とでもいえるだろうか。
 
たとえば、電子音はいけない、調和のとれた自然な音だけしか受け容れない、
という態度もあるかもしれないけれど、
それではあまりにも、いわゆる「きか猿」になってしまうだろう。
 
この地上は矛盾だらけで混乱させられることも多いのだけれど、
不協和音やら電子音やらもありながら、それらすべての矛盾のなかで、
生成してくる音楽を聴き取ろうとするときに、
はじめて聞こえてくる何かというのはあるのではないかと思っている。
 
 


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