元ちとせ:ハイヌミカゼ


2002.7.17

■元ちとせ:ハイヌミカゼ
 ESCL2320 02.7.10
 
今春から車で通勤するようになって、
毎朝、FMの「メルセデスベンツ・スーパーコラム」という番組を聴くようになった。
毎週月曜日〜金曜日、ゲストへのインタビューで構成されている。
今週のゲストは、この元ちとせ。
 
広告屋であるにも関わらずほとんど流行に疎いぼくは、
つい最近までこの「元」という文字の読み方がわからなかったりした。
(ぼくのような方のためにーーこれは「はじめ」と呼びます)
その歌声はなんどか耳にしていたし、
そういえばかなり前に視聴までしたはずだったのだけれど、
そのときはあまり記憶に残らなかった。
たぶん「ワダツミの木」だったのではないか。
先日FMの方から、ライブを聴いてその声にぶっとんだ!
という話がでて興味がでてきたところ、今回の番組出演。
その、あまりに淡々とした普通の声にむしろ心ひかれるものがあり、
聴いてみることにした。
最初は、聴き方というか、その声の不思議さというか民謡風の発声に、
少しばかり戸惑ってしまったところがあるものの、
ぼくのなかで「元ちとせ」の声の場所ができてくるに従い、
そこに流れているものを次第に感じ取ることができるようになっている。
おそらくライブとか聴くとそれもはっきりわかるのだろうという気がする。
 
ちなみに、アルバムタイトルの「ハイヌミカゼ」は、
奄美の方言で「南の風」を意味する言葉らしい。
そういえば、今日の放送にもあったが、奄美出身の元ちとせは、
奄美出身ということから、たとえば髪型ひとつとっても
「それは奄美風の髪型ですか」のようによく言われたりもするらしいが、
そういうこともあまりないらしい。
奄美ということがやはり「売り」なのだろうが、
それを超えてどういうものがでてくるかが今後の注目かもしれない。
しかしやはり大地的な力とでもいうのがその声からは響いてくる。
 
そういえば、かつてポップス漬けだったにもかかわらず、
なぜか80年代〜90年代にかけて次第に興味が薄れてきて、
ジャズ、クラシック、民族音楽などのほうに向かっていたのが、
ここにきて少しずつ耳がそちらのほうにも向かうようになってきているようである。
ひょっとしたらこれから音楽の面白い時代に
入っていきつつあるのではないかという予感のようなものがあったりもする。
この元ちとせもそのサインのひとつなのかもしれない。
 
以下、今回のアルバムに関するデータをHPより。
http://www.office-augusta.com/hajime/
とくに、「セルフ・ライナー・ノーツ」は、
アルバムにはないものなので、参考までに。
 
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<収録曲>
1. サンゴ十五夜(作詞:元 ちとせ・HUSSY_R/作曲:間宮工)
2. ワダツミの木(作詞:上田現/作曲:上田現)
3. 夏の宴(作詞:HUSSY_R/作曲:間宮工)
4. ひかる・かいがら(作詞:HUSSY_R/作曲:山崎まさよし)
5. 心神雷火(作詞:HUSSY_R/作曲:間宮工)
6. 37.6(作詞:HUSSY_R/作曲:間宮工)
7. 初恋(作詞:HUSSY_R/作曲:肝沢幅二)
8. ハイヌミカゼ(作詞:上田現/作曲:上田現)
9. 君ヲ想フ(作詞:元 ちとせ・HUSSY_R/作曲:ハシケン/編曲:間宮工)
10. 凛とする(作詞:HUSSY_R/作曲:Eric Mouquet)
 
#元 ちとせによる『ハイヌミカゼ』セルフ・ライナー・ノーツ
1. サンゴ十五夜
この曲は、私が奄美で見ていた”十五夜の満月が海を照らす時、水平線に見える船が
なぜか切なく感じたこと”を思い出して唄っています。遠く離れてしまった魂を愛し
く思う気持ちを奄美語で「愛(かな)しゃる」と表しています。”ふくらんだ感情は、
その魂たちに逢いたいと強く思っていく”、それを繰り返し唄う奄美の「拝(うが)
みぃぶしゃた」という言葉が伝えています。
2. ワダツミの木
この曲に出逢った時、初めて「海神(ワダツミ)」という言葉を知ることができ、
今までよりさらに海を大切に思いながら唄いました。そんな想いを含め沢山の人に
この曲が届いてくれて、本当にすごくうれしく思います。
3. 夏の宴
奄美では毎年夏に「八月踊り」と言って、輪になって太鼓と唄で踊るという行事が
あります。その日は、”亡くなった人の魂も一緒に”と、皆で踊ります。そんな
「八月踊り」の日のことを思い出して唄っています。
4. ひかる・かいがら
最初にこの曲を聞いた時、「やはり山崎節だ!」と感じました。ですが、詞を頂い
てから何度も唄う事で優しく自分の中に入ってきて、それが山さんの奏でる楽器と
良い感じにまざりあう事ができ、私が感じている優しさをいっぱい出せたと思いま
す。ドラムを叩く山さんは「俺はリンゴ・スター!」と言って叩いていました。
5. 心神雷火
「私の中の野生」=この言葉に私は一番ドキッとしました。こんな言葉に見落とし
てしまう当たり前な事を感じさせられるなぁ〜と。私は自分の事を野性的だと少し
思ったりもして、風の中を走る自分を想像したりしながら唄いました。パーカッシ
ョンの藤井珠緒さんは、私がサルになって走り回っているイメージで演奏したそう
です。
6. 37.6
小さい頃、熱が出て不安になっている時お母さんが優しくなるのがうれしくて、
うんと甘えてた自分を思い出します。一人の生活になって寝込んだ時、「こんな
時に家族がそばにいてくれたら」なんて最近感じたりもしました。この歌録りの
時、見事に私は37度6分の熱があったのでした・・・
7. 初恋
初めて恋の歌を唄ったので「初恋」?なんです。聞きやすい音の中に切なさがた
っぷりあるなぁ、と思い唄ってみたくなった曲です。
8. ハイヌミカゼ
「夏の宴」では「八月踊り」という風景を唄っていますが、この曲は「八月踊り」
の時に一緒にいる魂たちへの思いがすごく強く伝えられていると思います。
「一緒にこの南の風の中で」という気持ちを感じたので「ハイヌミカゼ=南の御風」
というタイトルにしました。馬頭琴の音が風を運んでくれるのではないでしょうか。
9. 君ヲ想フ
18歳で奄美を出る時、空港で見送る友達や両親と離れる淋しさや都会で一人で
生きるという不安で泣き崩れました。でも、そんな不安を抱えてやってきた都会で
出逢った人達に”ふるさとを想うという気持ちをもらった”と、最近強く感じてい
ました。そんな気持ちを詞にして、そして奄美の空港への道を知っているハシケン
さんに曲を書いてもらいたいと思いお願いしました。この曲を聞いて「何か大切な
君ヲ」想ってほしいと思います。
10. 凛とする
初めて曲を聞いた時「寒い国の音がする」と思い、私が初めて雪を見た時のことを
思いました。大はしゃぎで雪に抱きついたりした事など。そして、海を渡りエリッ
クさんと出逢い、この曲が完成した時ほんとうにうれしかったです。とても良い経
験をしたなと思います。そして、またエリックさんと一緒に何かできたらと思って
います。この曲から”雪の美しさ”、”その雪をうけとめる大地の偉大さ”を感じ
てほしいです。 
(関東版「weeklyぴあ」2002年6月17号より転載)
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