山下洋輔・音楽秘講座


2002.1.11

■音楽秘(まるひ)講座
 山下洋輔
 ×
 茂木大輔
 仙波清彦
 徳丸吉彦
 (新潮社/2001.12.20発行)
 
山下洋輔はその音楽からではなく
筒井康隆(ジャズ大名とかいう作品は笑えた)がらみのエッセイから入った。
その言葉は非常に身体的というか、
こんな人がいったいどんなピアノをひくのだろう、
たぶんドタバタ・シャバダバ・ドゥビドゥビ・・・
という感じなのではないかとか想像してみたりもしてたのだけれど
その演奏を聴いてみると、意外なことに、
ぼくにはその音がしなやかで繊細かつ
非常に知的な響きをもってぼくに迫ってきた。
すでに20年以上前のことではあるのだけれど・・・。
 
で、最近はあまりジャズとか
聴かなくなっていたもので、
山下洋輔という名前もぼくのなかの
伝説的な引き出しのなかにしまわれていたのだけれど、
少し前に、ガーシュウィンを弾いたものを聴いてみて、
あらためてその音に感嘆していたところ、
本書がさりげなく書店に並んでいた。
 
音楽のさまざまなジャンルを代表する三人との話のなかから、
「音楽」に関するさまざまの話を聞きだしている?というもの。
ぼくにとってはこれまで聴いたことのなかった
興味深い話ばかりで、目を開かされるというか、
耳をあけっぱなしにして、ふ〜ん、ふ〜ん、と
感心し続けていた感じ。
 
最初の講座の茂木大輔は「クラシック音楽家」とあるが、
オーボエ奏者として有名で昨今では指揮者をめざしているとか。
その講座の題名が「クラシックも即興である」というように、
「即興」ということをめぐって、
ジャズとクラシックを同じ場に置きながら
スリリングで笑いに満ちた対話が進む。
        
        茂木 だから、結局、隅々まで決められている楽譜が、いい演奏に
        なるか、悪い演奏になるかということは、究極的にいえばインプロ
        ヴィゼーションしているかどうか、イメージを持てているかどうか
        だと思うんですよね。構成にのっとった上で流れが自然かどうかと
        いうことですから、まるで即興音楽のように起きるのが、一番素晴
        らしいピアノソナタの演奏だと思うんです。今、ベートーベンがそ
        こにいて作っているみたいなね。バッハというのは非常に響きやす
        い音楽だから素晴らしい。優れた交響曲は大体そうでしょう。論理
        構造がしっかりしているので、どんなふうにやっても大丈夫だから、
        演奏家はすごく自由で、指揮者はすごく遊べるといいますか。
        (P61-62)
 
次の講座は、邦楽囃子方仙波流の仙波清彦との対話。
題名は「邦楽もジャズである」というように、
そのものずばりジャズと邦楽がぐじゃぐじゃになりながら、
それぞれが浮かび上がってくるような刺激的なもの。
 
        山下 あ、今、分かった。仙波さんの猛烈なダジャレ攻撃の源は、
        江戸時代にあったんだ(笑)。以前に、鎖国したおかげでものすご
        く面白いものが生まれた、っていう言葉も仙波さんから聞いたけど、
        ダジャレも歌舞伎もその産物かな。
        仙波 歌舞伎だけではなくて打楽器奏者として、それをどう、多く
        の人に理解していただけるかということが、僕の今の一番の課題で
        す。僕たちは、歌詞ののっかった打楽器をやっているわけです。だ
        から、悲しみなら悲しい表現をするし、怒りなら、そのような表現
        をするのですけれども、打楽器でそういうのはなかなかないですよ
        ね。オーケストレーションされたものは、ここをフォルテて打って
        くれ、とかそういう指示です。そうではなくて、ポンというものに
        何かを込めるというような打ち方。歌詞がついているからかなり具
        体的なんです。例えば、老婆が昔のことを思いながら、実は鬼女な
        んだけど、糸繰りをするとか、そういうところに鼓をポーン、ポー
        ンと入れていくというのはすごく難しいことです。
        (P120-121)
 
最後の講座は、音楽学の徳丸吉彦との対話。
題名は「音楽は人間である」。
世界のさまざまな音楽のことが飛び交いながら、
音楽への深い洞察と愛情が飛び交っているような話。
う〜ん、こんなすごい学者がいたんだ、という感動。
 
        徳丸 …では師匠はなぜここで怒って、こちらは大目に見てくれた
        のだろうかということを考えているうちに、音とうものには序列が
        あって、それはこう組み合わされているんだなという感じがだんだ
        ん分かってきました。そして従来の三味線についての音階理論とい
        うのは、作り手の意識というものを無視して、観察者の意識で作っ
        ていたのではないかと、考えるようになりました。
        山下 音には序列がある、という言葉は刺激的ですね。以前の観察
        者は、実際には深く演奏には関わらずに、話だけを聞いてそういう
        結論になったんですね。
        (P184)
 
引用させてもらったところでは、
その面白さがいまいちよく伝わらないとは思うのだけれど、
ジャズの好きな人も、
あまりジャズなんか聴いたことないという人も、
音楽に関心のある人なら、非常な刺激だらけのお買い得な一冊!
もちろん、以前の山下洋輔のエッセイの数々を
まだ読まれてない方は、ぜひ、いちど読まれると癖になることうけあい。
 
 


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