風の音楽メモ2


小室等:NO GOOD WITHOUIT YOU


2005.11.29.

■小室等:NO GOOD WITHOUIT YOU

なんか頑固そうだけど、とてもやさしそうな小室等。
その小室等の声がこのアルバムでは、さらにずっとやさしい。
ただのやさしさではなく、ぐぐりぬけたやさしさというか、
ひとまわり大きなやさしさというか、そんな声が楽しめる。

このアルバムは、谷川俊太郎(詩)、
そして谷川賢作(ピアノ)が参加しているが、
その谷川俊太郎も
「小室さんの歌は若いころよりずっとやさしくなっていると、私は感じます」
と記している。

小室等が谷川俊太郎の詩に曲をつけたアルバム
「いま生きているということ」は名作だった(とぼくは思っている)。
そのなかには、矢野顕子がピアノで参加している「夏が終わる」という
ぼくにとっても永遠の名曲も収められている。

そのアルバムから30年近く。
このアルバムでも谷川俊太郎を歌ったものが収められている。
その他に、「エデンの東」や「スターダスト」、
「オーバー・ザ・レインボー」のような名曲を歌っているアルバムだが、
やさしく語りかけるような声がなかなかに渋い。
年を経なければできないことがあるんだなとあらためて感じた。
年を経たからといって必ずしもいいわけじゃないんだけど、
熟したからこそできるものもあるというわけだ。

現代は若者文化だというのが当然のようにいわれてきているが、
いわゆる戦後、音楽などをつくってきた若者たちも
いまや数十年を経てかなり高齢者化している。
そしてそうした人たちの多くはけっこう元気である。
成熟とまではいえないまでも、
年を経なければできないことをしっかり見せてくれるのはうれしい。

さて、何年かまえに、小室等のベストアルバムというのをきいたことがあるのだが、
おもったほどおもしろくなかったのを覚えている。
なぜなんだろうと素朴に思ったものだが、
やはり、アルバムはぜんたいとしてのコンセプトがあって、
そのなかでさまざまなものが奏であってはじめて響いてくる。
だから、いいとこどりしようとおもっても、そんなのはどこか嘘になるわけだ。

このアルバムには、いろんな曲が入っているが、
それらがさいしょにいったような大きなやさしさでつつまれている。
ある意味で「長老」がテントのなかで若者たちに歌い語っている感じだ。
いいなあ、と思う時間が静かに流れてゆく。