乾石智子『夜の写本師』『魔道師の月』『太陽の石』『闇の虹水晶』

2013.2.11

・乾石智子『夜の写本師』『魔道師の月』『太陽の石』『闇の虹水晶』(2013.2.11)

ファンタジーものというのは、決して嫌いではないのだけれど、
ときに期待して読んでみると、世界観も表現もある種の稚拙な型のなかにおさまっていて
消化不良になるような食べ物を食べてしまったときの後悔に似たものを
味わうことになることもあるので、気をつけて食すようにしている。
つまりは、やたら読まない。
とくに、稚拙な世界観のものは避ける。
グインの『ゲド戦記』やエンデの『モモ』のようなファンタジーはなかなか見つからないのだ。
ファンタジーに限らず、こうした種類の物語には、
SF的なものも含めて、エンディングで失望させられてしまうものも多い。

そんななかで最近、とても素晴らしいファンタジーを見つけた。
乾石智子の「魔道師」のシリーズ、『夜の写本師』『魔道師の月』『太陽の石』、
そして最新刊の『闇の虹水晶』である。
ファンタジーらしいといえば、ほんとうにファンタジーらしすぎるほどなのだけれど、
表現に奥行きがあり、光と闇の世界観もダイナミックで、アイデアも豊か。
深い闇に落ちてしまった人物の深い深い絶望的な悲しみを描くところなども秀逸で、
キャラクターの描き方も深い。変なくさみのある宗教感もなく、
むしろ神秘学的な深い智慧が背景にあるようにさえ感じられる。

最近はどうも、どんな物語を読んでいても、
読むのを途中でやめたくなるようなものが多いのだけれど、そういうとところがない。
ときどきなぜ物語を読みたくなるかというと、そもそも物語にどっぷりつかりたいから読むわけで、
途中で興ざめしてしまうような話は最初から読まないに越したことはない。
その点、安心して読み進められそうなファンタジー作家を見つけた感じがして、
ちょっと得した気持ちになっている。