野上ふさ子『アイヌ語の贈り物―アイヌの自然観にふれる』

2013.1.11

野上ふさ子『アイヌ語の贈り物―アイヌの自然観にふれる』(新泉社/2012.12.6) 2013.1.11

野上ふさ子さんは、この本が刊行されるのを待たずに、
2012年10月10日に亡くなっている(1949年新潟県南魚沼市生まれ)。
1972年から北海道各地のアイヌ集落を訪れ、アイヌ語を学びながら、環境保護の運動を続ける。
1984年東京でエコロジー総合誌『生命宇宙』第一~四号、
1986年環境運動紙「みどりの新聞」発行、動物実験の廃止活動も行う。
アイヌに関して、『アイヌ語は生きている』『ユーカラは甦る』『ウレシパモシリへの道』の
三部作がある。

アイヌを美化だけすることは避けなければならないだろうが、そ
の世界観や自然観の側面については、さまざまに学ぶものが多い。
アイヌに関して見るようになるまで、アイヌ語についてはまったく知らなかったが、
著者は、単にそれを保存のための研究対象のようにするのではなく、
世界観、自然観をふくめ、言葉や文化などを生きたかたちで知りたいと思い、
アイヌ語を贈り物のようにここで紹介している。

著者は、動物実験の廃止活動も行っていて、本書でも次のように述べている。
「物事をできる限り細かい部分に切り分け、その細部を専門的に研究し、
それによって得られた結果を全体に普遍化して考えることが、近代科学の方法論です。
私はこのようなものの見方に大きな疑問を抱きました。
このような態度で学問をすればするほど、
自分の内なる自然がズタズタに痛めつけられていくような感覚を味わうことがたびたびあります。
自然のいのちを切り刻み、殺傷していくような研究方法は、どこか間違っていると思えます。」

アイヌの自然観は、少なくともそうした近代科学的な視点に反省を促す要素を持っている。
しかしそれをまた教育的に、ある意味、外的につめたく教条化するような形で学ぶのではなく、
みずからの世界観・自然観と共振させていくことが大切だと思う。
この本は、ぼくにとって、その共振の第一歩になるように感じている。