ユジェン・バフチャル

2012.11.6

池澤夏樹の『光の指で触れよ』の表紙に使われている
写真が気になっていたが、誰の写真かは知らずにいた。
西崎憲という作家・翻訳家の『飛行士と東京の雨の森』(2012.9.10/筑摩書房)に
収録されている「理想的な月の写真」という作品に、
「ユジェン・バフチャル」という盲目の写真家の名前がでてきたので、調べてみると、
その表紙の写真家であることがわかる。

ユジェン・バフチャルは、生まれつき盲目であったのではなく、
次第に全盲になっていったそうだ。
だから、港千尋(『映像論 光の世紀から記憶の世紀へ』 )によれば、
「見える世界の「記憶」は残っている」。
そして、「写真を撮るときに空間を視覚的ではなく 時間的に把握する」ということだ。

私たちは「視覚」で写真を撮っているし、そのことを疑わないでいる。
しかし、機械のように見たもの、フレームを
パシャリと撮るのが「写真」だと思い込んでしまうと、
そこからは決定的になにか切実なまでに重要ななにかが
欠損してしまうことになるのではないだろうか。

そのことは、私たちが見ているものはいったい何か、
という問いをも突きつけてくることになる。
これだけ即物的になってしまった時代だからこそ、そ
こに大きな問いを常にもっていたいと思う。

ユジェン・バフチャルのサイトがある。作品も観ることができる。

http://www.zonezero.com/exposiciones/fotografos/bavcar/index.html