風のブックメモ

『武満徹を語る15の証言』


2007.4.6

■『武満徹を語る15の証言/聞き手・武満徹全集編集長』
 (小学館/2007.4.2.発行)

   サーキン 生前、武満さんは私にいくつもの作品を、一緒に弾くような
   演奏会を希望していました。私は彼の曲とバッハの曲を一緒に弾いたこ
   ともあるのですが、徹さんは「それだけはやめてくれ、バッハと比べら
   れたら、私たちがどれだけひどい作曲家かわかってしまいますから、友
   人だったらやめてくれ」と言っていました(笑)。
   (P.476)

バッハと武満徹は、ぼくにとってはもっとも大切に思っている音楽家なので、
この引用にある武満徹のコメントとされていることは
本書のなかでもとくに印象に残っている。

ぼくはなによりもバッハの音楽を格別なものと思ってきているけれど、
武満徹の音楽がますますぼくのなかで重要になってきているのは間違いない。
バッハと武満徹の違いといえる重要な点は、
武満徹はぼくの生きている間に、同じ日本で、
同時代を生きていたことがあるということが確実にわかっているということだ。
そして、ぼくの使っている日本語でさまざまな著作も書いてくれている。
このことはどれだけ感謝してもし足りないことなのだろうと思う。
そして、直接は武満徹のことを知らずにいても、
こうした「語る」人たちのことばを通じて、
その人そのものについてのさまざまをも感じとることができる。

武満徹全集全5巻に加えて、本書で
「武満徹を語る」シリーズ全3冊が刊行されたことになるが、
全集も「語る」シリーズをつくったのも、大原哲夫さん。
大原さんは、小学館で『モーツアルト全集』、次いで『バッハ全集』を完結後、
武満徹の亡くなった翌年から『武満徹全集』に取り組み始めたという。
そして2004年にそれが完結した後、さらにこうして「語る」シリーズがつくられ、
この2007年の春、それも完結することに。
全集はもちろんのこと、この「語る」シリーズもとても重要な資料である。

本書で語っている15人のインタビュー、全15章は、
『武満徹全集』第1巻から第5巻までに、第1章から第11章までが収められ、
さらに第11章から第15章までが加えられている。
すべて、「聞き手」は、大原哲夫さんである。
語っているのは、次の15人。
尺八奏者・横山勝也、フルート奏者・小泉浩、映画監督・篠田正浩、
マネージャー・宇野一朗、作曲家・池辺晋一郎、指揮者・岩城宏之、
能役者・観世英夫、音響技術者・奥山重之助、グラフィックデザイナー・粟津潔、
元西武美術館館長・紀国憲一、クラリネット奏者・リチャード・ストルツマン、
プロデューサー・ピーター・グリリ、作曲家・林光、ピアニスト・ピーター・ サーキン。

武満徹の言葉だけではなく、武満徹について語っているこうした言葉も、
いつまでもいつまでも読み続けていたい気持ちになってしまう不思議な魅力を もっている。
ぼくのなかでは、その音楽だけではなく、武満徹をめぐるすべてが
かけがえのないポエジーとなって響いてくるからなのだろう。