風のブックマーク2004
「物語」編

 

冲方丁『マルドゥック・スクランブル』


2004.3.28

■冲方丁『マルドゥック・スクランブル』
 The First Compressionーー圧縮
 The Second Combustionーー燃焼
 The Third Exhaustーー排気
 (ハヤカワ文庫JA721,726,730
  2003.5.31/6.30/7.31)
 
なんとなくこの作品のことを目にしたことはあったのだが
全3冊という長大さで
また、ぼくがこれまで読んできているタイプの物語とは
ちょっと異質な感じもして敬遠していたのだけれど
日本SF大賞を受賞したということもあり
(とはいえこれまではそういう理由で読もうと思ったことはないけれど)
むしろその異質さを今の自分は欲しているのかもしれないという思いから
引越などで忙しいさなかであるにもかかわらず
読み始めると止まらず、3冊を数日で読んでしまうことになった。
 
作者は冲方丁。
「うぶかた・とう」と読む。
1977年生まれ。
 
3冊目にある「後書き」に
この作品がこうして日の目を見るようになる経緯が書かれてあるが、
なかなかの難産だったようだ。
さもありなん。
 
        僕はただ、反吐にまみれながら見つけた、精神の血の一滴を、
        他の誰かにも見せたかっただけなのだ。そしてその切々とし
        た輝きが、どんなときも、あらゆる人々の中にもあることを、
        大声で告げたかっただけなのだ。
        最善であれ最悪であれ、人は精神の血の輝きによって生きて
        いる。
        エンターテインメントは、その輝きを明らかにするためのも
        のに他ならない。
        そして僕は、そのために泥の中を這い回る、最前線の兵士の
        一人でありたい。
 
本書を読み終えたあとで読むこの言葉には説得力がある。
そんな「エンターテインメント」が数多くあればいいが、
ふつうはその逆のものが多いように見える。
しかしこういう若き作家が存在しているということは希望でもある。
 
世の中は今烈しく変化し続けているように見える。
そして多くは忌まわしいまでの変化なのだけれど
それにもかかわらず、いやそれだからこそ
そこにさまざまな輝きが見えてくるのかもしれない。
その輝きのひとつでもあるだろうこうした作家の作品を
できるだけ食わず嫌いしないように、
ときにはじっくりつきあってみるようにしたいと
あらためて思っている次第。
 
 

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