■クラフト・エヴィング商會 『じつは、わたくしこういうものです』 (平凡社/2002.2.14発行) クラフト・エヴィング商會とは何か。 #10049で吉田篤弘『針がとぶ』を紹介したときに名前を挙げたけれど、 吉田篤弘と吉田浩美によって運営されている制作ユニット。 とてもユニークな本をたくさんだしていて、 この『じつは、わたくしこういうものです』は 新刊で出たころ書店で立ち読みしていたのを ようやく今になって手に入れたもの。 最近はいわゆるファンタジーものには食傷気味で はやく今のような流れはなくなってほしいと思っているのだけれど、 クラフト・エヴィング商會のつくっている こうした図鑑+詩集+ファンタジーのような本は別。 読む前もそのデザイン感覚を楽しめるし 読んでいるときにはそのファンタジーを味わえ 読み終えたあともとても後味がよくて しかも何度でも読み返したくなるようなところがある。 この『じつは、わたくしこういうものです』は、 架空の職業をもった「わたくし」たち、 月光密売人、秒針音楽師、果実鑑定士、三色巻紙配達人、 時間管理人、チョッキ食堂、沈黙先生、選択士、 地歴測量士、白シャツ工房、バリトン・カフェ、 冷水塔守、ひらめきランプ交換人、二代目・アイロン・マスター、 コルク・レスキュー隊、警鐘人、哲学的白紙商、シチュー当番 が、ひとりひとり登場してその仕事について語るというもの。 これは雑誌『太陽』の2000年1月号から12月号まで連載されたものをもとに 再構成したものだそうだが、なかには本当のことだと勘違いして 問い合わせがあったものもあったようである。 なかなかいい話だ(^^)。 秒針音楽師について紹介しているところをご紹介してみましょうか。 ほんのひととき。 またたく間。 1分とかからない、秒針だけで計れる音楽を奏でる。 ゆえに<秒針音楽師>と名付けられた彼女は、 世界でいちばん小さな音楽をつくる人であります。 その音楽は、奏される音楽も短ければ、音量、楽器、楽譜…… 何もかもが小さく、 扱うテーマまでもが小さい。 ささやかなもの、静かなもの、かけらのようなもの…… 聴こえるか、聴こえないかという程に 小さな音で奏でられる『針の穴のための音楽』とは、 さていかなるものでありましょう? 彼女の小さな声に、しばし耳を傾けてくださいませ。 クラフト・エヴィング商會の本はたくさんでていて どれをとってもみんなほんとうにある話じゃないんだけれど ひとつひとつの話がとてもきもちよく語られ アイデアもとてもとても凝っている。 なにより装幀屋さんだけあって編集デザインもすぐれている。 ううん、しばらくはまってしまいそうだ。 アイデアづくりやデザイン感覚を学ぶためにもよさそうだし。 |