風のブックマーク2004-2005
「物語」編

 

矢作俊彦『ロング・グッドバイ』


2005.1.16

■矢作俊彦『THE WRONG GOODBYE  ロング・グッドバイ』
(角川書店/2004.9.11発行)
 
チャンドラーの『ロング・グッドバイ』は『長いお別れ』で、
矢作俊彦の「ロング」は「WRONG 」。
パロディではあるがテイストは真性のハードボイルド。
この作品は長い間があいたけれども、シリーズ第3作。
とはいえ以前の作品を読んだことはなかったりするが、
昨年少しばかり話題になって以来どこか気になっていた。
500ページを超え600ページに迫ろうとする長大な作品で、
迷っていたのだけれど書店で立ち読みをしていてすぐにはまってしまった。
久々に味わう、哀愁漂うハードボイルドはいいものだ。
 
チャンドラー的なテイストを読み始めると
その絶妙な会話や洒落にはまってしまった人は少なくないはず。
その影響は、もちろん村上春樹の作品にも大きく及んでいる。
 
『長いお別れ』がなつかしくなって本棚を探してみたのだけれど、
『さらば愛しき人よ』や『プレイバック』、『湖中の女』や短編集、
田中小実昌訳の『高い窓』などほとんどはあるのに、
『長いお別れ』だけが見つからない。
まさにこれこそがLONGではなく
WRONGのほうの「別れ」なのかもしれない。
 
しかし、このハードボイルドというのも、
そのままではすでに過去のものなのかもしれない。
古き良きアメリカの香り?
だから、WRONGのほうのロングにならざるをえないところがある。
 
ストーリーを紹介しても意味がなくじゃまになるだけなので、
ストーリーとは直接関係のない、作品のいちばん最後に書かれてある文章を
紹介しておくことにしたい。
 
	その日から先、私が親しくしていたものは残らずこの町から
	いなくなった。しかしアメリカ人だけは別だ。アメリカ人に
	さようならを言う方法を、人類はいまだに発明していない。
 
まさに、しかり。
今、人類全体が言いたくて言い難い言葉でもある。
「アメリカ人にさようならを言う方法」
小泉首相にぜひ見つけていただきたい方法なのだが…。
 

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