風のブックマーク2004
「物語」編

 

ジェフリー・フォード『白い果実』


2004.10.7

■ジェフリー・フォード『白い果実』
 (山尾悠子・金原瑞人・谷垣暁美訳/国書刊行会 2004.8.23発行)
 
山尾悠子の訳だというのに目が留まって気になっていた作品。
 
1ヶ月近く書店でぱらぱらめくったりしながら
その1冊のまわりをぐるぐる巡っていたが
なぜか機が熟したように思えて、思い切って手に入れ、
結局一気読みに近いかたちで面白く読むことができた。
 
こういう縁のある作品というのは裏切られることは少ない。
縁のある本というのは、ほとんど本がこちらを見つけてくれて
仕方ないなあと苦笑しながらすぐにその場で手に入れるタイプと
こういうように一度気になったけれど
何度も何度も迷って手に入れるタイプのものがある。
どちらがいいとはいえないけれど
後者の縁というのは前者のそれとは少し違うところがあるのかもしれない。
 
つまらない前置きになってしまったが、
やはり山尾悠子である。
山尾悠子の作品に最初に出会ったのは
ハヤカワの『夢の棲む街』という文庫で
見ると昭和53年6月30日発行となっている。
それからもうかれこれ25年以上経っている。
その山尾悠子はその数年後沈黙してしまい
「復活」したのはつい数年前のこと。
『山尾悠子作品集成』というのが国書刊行会から刊行され
次いで『ラピスラズリ』という連作長編も同じく国書刊行会から昨年刊行された。
 
そしてこのジェフリー・フォード『白い果実』の「翻訳」である。
「翻訳」といっても、金原瑞人・谷垣暁美による翻訳をもとに
山尾悠子がその独自の「文体」で訳したというもの。
 
ジェフリー・フォード『白い果実』は、
1997年に出版され世界幻想文学大賞を受賞した作品だという。
最後まで飽きることなく読むことができたが
そのストーリーはもちろんのこと
その山尾悠子の「文体」が「ハマッテイル」からだともいえそうだ。
 
金原瑞人はこう述べている。
 
        なんとも、なんとも贅沢な一冊である。もしかしたら原作を越えて
        しまったかもしれないと危惧しているくらいだ。
 
原文は知らないが、たしかにそうなのかもしれない。
「文体」というのはそれほどの意味をもっているといえる。
同じ意味を表現していても「文体」が異なれば
その「効果」には天と地の開きがでてくることもある。
 
ということで、肝心の作品の内容にはふれずに
いつものごとく、「御託」を並べてしまうことになった。
せめて、ということで、山尾悠子による「後記」から。
ここで山尾悠子の記しているような感想は
ぼくのそれととても近いものがあったので。
 
        これは独裁者の支配する未来世界の自滅的崩壊を描いたカフカ風の
        寓話であるとする評もあるようですが、個人的に印象に残ったのは
        ストーリーのひとつの軸となっている(女性をめぐる物語)です。
        「私、ずっと思っていましたのーーいつか市(シティ)に行って、
        立派な図書館で勉強したり大学の講義に出たりしてみたいって」こ
        の台詞ゆえに共感を呼ばずにおかない辺境の独学娘アーラをめぐる
        物語ーーつまりこれは主人公の彼女に対する理不尽な仕打ちとその
        後の失墜、贖罪についての物語であるという読みかたもできるので
        はないでしょうか。<緑のヴェール>が象徴するものを簡単に読み
        解くことは難しく、また結末部にはやや物足りないものを感じもす
        るのですが、女性蔑視に満ち満ちた主人公がさんざんな目にあうこ
        とになる過程は充分に楽しませてもらったことをここに記しておき
        たく思います。
 
ところでこの作品には、第二部と第三部があるという。
できうれば同じく山尾悠子の文体で読めますように。
 
 

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