■ラルフ・イーザウ『暁の円卓』 (酒寄進一訳・長崎出版/2004.5.10〜) 『ネシャン・サーガ』、『盗まれた記憶の博物館』が すでに訳されているラルフ・イーザウの長大な作品 『暁の円卓』が訳出されはじめている。 現在、第1巻と第2巻がでたところだが、 全部で第9巻まででることになる。 第1巻と第2巻の出たスパンが約2ヶ月とちょっとで それでいくと来年の9月頃完結になることになるが おそらくもう少し長くかかるのではないだろうか。 さて、第1巻の「あとがき」から引用すると この物語は次のようなもの。 この作品では、1900年1月1日に生まれ、百年の命を与えられた 主人公デーヴッドの目を通して、もうひとつの「二十世紀」が描かれ ます。「浄化」すると称して全人類を破滅させようと企む秘密結社 <暁の円卓>との戦いが主旋律です。二度の世界大戦、原爆投下、ガ ンジーやケネディの暗殺など、いまわしい歴史的事件が<暁の円卓> という一本の赤い意図で結ばれます。また、しだいに移り変わる世界 観や生活習慣、文化など、さまざまな人間の営みを生き生きと描いて いるところも本書の魅力でしょう。知識としてしか知らないばらばら の情報が、スリリングな小説の形をとることで、まざまざと像を結び はじめます。この作品には、二十世紀の空気が充満しているといえる でしょう。 主人公のデーヴィッドは、上記にもあるように 1900年1月1日に生まれ、百年間、二十世紀を生きていきます。 そして秘密結社<暁の円卓>と戦い続けていくことになる。 この主人公は面白い設定になっていて日本で生まれ、 昭和天皇の「ヒト」、伊藤博文の孫の「ヨシ」と 深い友情で結ばれていることになっている。 すでにその「ヨシ」は第2巻で命を落とすが、 「ヒト」とはおそらくずっと世紀の終わり近くまで 手を携えていくことになるのだろう。 デーヴィッドはもちろん日本語が話せる。 日本での展開もさまざまにある。 第2巻では四国の愛媛県の「イヨサイジョー」がでてきていたりした。 「コーチ港」から「イヨサイジョー」という漁村に バスで南から北へと縦断する。 昭和のはじめの頃だ。 ラルフ・イーザウは日本について詳しいのだろう。 そしておそらく日本の読者層も意識しているのかもしれない。 それはともかく、秘密結社<暁の円卓>との戦いという設定は ともすれば陳腐なものになりかねないところもあるのだけれど 20世紀を貫く歴史とリンクさせていることで その設定が生きて読者に伝わってくる。 面白い設定だ。 実際、世界は目に見えるような「秘密結社」と称するものというより もっと深いところで影響を与えている何かがあるように思える。 そしてそれはある種、霊的な潮流とも深く関係しているのだろう。 それについて深い洞察を持つということは必要なことかもしれない。 しかしその洞察のためには、安易なオカルト趣味はむしろ危険だろう。 むしろその闇に巻かれて混乱してしまうだけになるだろうから。 重要なのは、しっかりとした見識を育て、歴史をしっかり見直すということだ。 そういう意味で、本書は物語の形をとって20世紀を概観させてくれる 勇敢な試みとしての小説だということができるかもしれない。 参考までに、 訳者の酒寄進一さんのHPは http://www.wako.ac.jp/~michael/ 「暁の円卓」のHPは http://www.rakura.serio.jp/kreis/ 作者のラルフ・イーザウのHPは http://www.isau.de/ |