■吉田篤弘『針がとぶ』 (新潮社/2003.12.20.発行) 吉田篤弘という名前は憶えていなかったが、 「クラフト・エヴィング商會」の本を 何度も立ち読みしたことがあるので思い出して、 心ひかれるものがあり読んでみることにした。 やはり装幀の仕事をしているだけあって、 いちばんさいしょに目にとまったのはその表紙。 続いて「針がとぶ」というタイトル。 そして帯のコピー 「これにて、月とふたりきり 空から記憶がおりてくる」 ううん、これにて、月と・・・かあ。 どんな記憶がおりてくるのか、気になってしまうではないか。 しかも、その下には、こんなふうに列挙してある。 月面で眠る猫、クロークルームに残る運命のコート。、 八十日間で世界を一周した男と常夜灯に恋をした天使。 6月の観覧車、真っ白なジャケット、針がとぶレコード…… クラフト。エヴィング商會の物語作家が紡ぐ、 月と旅と追憶のストーリー ぼくはどうもこういう道具立てに弱くて、 とてもとても心ひかれてしまう。 ・・・そして、読んでがっかりしたかというと、その逆。 まるで詩集のように読むことのできた愛すべき一冊となった。 心しずかに、すこしどきどきしながら、 言葉がすーっと描かれていくこういう物語は 終わってしまうのがとてもおしくなってしまう。 言葉の奏でるリズムやメロディーそのものが 静かにすごしたい夜などにはとても似合っているのだろう。 吉田篤弘の作品は、ほかに『フィンガーボウルの話のつづき』、 『つむじ風食堂の夜』というのもでているようなので、 それもそのうち大切な気持ちで読むことになる気がする。 |