風のブックマーク2004
「物語」編

 

吉田篤弘『針がとぶ』


2004.1.6

■吉田篤弘『針がとぶ』
 (新潮社/2003.12.20.発行)
 
吉田篤弘という名前は憶えていなかったが、
「クラフト・エヴィング商會」の本を
何度も立ち読みしたことがあるので思い出して、
心ひかれるものがあり読んでみることにした。
 
やはり装幀の仕事をしているだけあって、
いちばんさいしょに目にとまったのはその表紙。
続いて「針がとぶ」というタイトル。
そして帯のコピー
「これにて、月とふたりきり
 空から記憶がおりてくる」
ううん、これにて、月と・・・かあ。
どんな記憶がおりてくるのか、気になってしまうではないか。
しかも、その下には、こんなふうに列挙してある。
 
 月面で眠る猫、クロークルームに残る運命のコート。、
 八十日間で世界を一周した男と常夜灯に恋をした天使。
 6月の観覧車、真っ白なジャケット、針がとぶレコード……
 クラフト。エヴィング商會の物語作家が紡ぐ、
 月と旅と追憶のストーリー
 
ぼくはどうもこういう道具立てに弱くて、
とてもとても心ひかれてしまう。
 
・・・そして、読んでがっかりしたかというと、その逆。
まるで詩集のように読むことのできた愛すべき一冊となった。
心しずかに、すこしどきどきしながら、
言葉がすーっと描かれていくこういう物語は
終わってしまうのがとてもおしくなってしまう。
言葉の奏でるリズムやメロディーそのものが
静かにすごしたい夜などにはとても似合っているのだろう。
 
吉田篤弘の作品は、ほかに『フィンガーボウルの話のつづき』、
『つむじ風食堂の夜』というのもでているようなので、
それもそのうち大切な気持ちで読むことになる気がする。
 
 

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