風のブックマーク2004
「詩」編

 

平田俊子詩集


2004.1.24

■平田俊子詩集
 (現代詩文庫158 思潮社 1999.12.15発行)
 
言葉が恋しくなると現代詩文庫を探す。
裏切りはきわめて少ない。
 
いちばんはじめに現代詩文庫を買ったときの記憶を探してみると、
たしか1976年、「55金井美恵子」ではなかったかと
たしかではないかもしれないけれど、おぼろげながら思い出す。
そのときおそらく金井美恵子はたぶんすでに詩を書かなくなっていたが
その頃書いていた小説はぼくにとっては詩でもあった。
手元にある小説を探してみると1976年には
『アカシア騎士団』がでている。
その後、金井美恵子の言葉はぼくには
ちょっと面倒くささのほうが勝つようになり
次第に読まなくなっていったものの
その頃のたとえば『岸辺のない海』などぼくには
いまだにぼくにとっては新鮮な響きをもっている。
現代詩文庫は今やおそらく80冊ほどはあるように思うが、
刊行されるものをすべて読む気はしない。
今回のように、そのときに必要な言葉というのがあるのだ。
 
さて、平田俊子である。
手にとってみるまでその名前も
作品もかすかしにか記憶に残っていなかったが、
その最初の詩集『ラッキョウの恩返し』という名前だけは
なんと変なタイトルだろうというくらいは覚えていた。
それが刊行されたのは1984年のことだという。
プロフィールをみると、その後、
『アトランティスは水くさい』『夜ごとふとる女』
『(お)もろい夫婦』『ターミナル』が刊行されている。
芝居の台本も書いているようである。
小説もつい最近出ている。
この『平田俊子詩集』には全部ではないが
『ラッキョウの恩返し』から『ターミナル』までの
主な詩が収録されている。
 
読み始めるとやめられなくなった。
かつて筒井康隆をはじめて読んだときにも似ている。
どこで生まれ育ったかは書かれていないが
まるで吉本の漫才のような詩まであることから
どうも関西のような気がする。
おもしろすぎるほどではあるが、
あまりに壮絶な雰囲気をもった詩も数多い。
怖いほどである。
怖いものみたさに読み進めるという
これまで読んだことのある詩ではまず考えられない体験。
詩はまだまだ未知の大陸を残しているのかもしれない。
 
辻征夫がこんな評を載せている。
 
        平田俊子はめずらしく、退屈しないでおしまいまで読める詩を
        書く人である。彼女が朝日新聞日曜版に詩を連載したときには、
        あまりのおもしろさにふと危惧さえ感じたくらいだった。その
        後なにかの折りに会ったとき、彼女が現実生活でやはり代償を
        払い、いまは一人暮らしをしているときいて、かわいそうでな
        らなかった。おもしろい詩などというもの、おじさんにまかせ
        ておけばいいものを、彼女もまた魔物を背負って生まれてしま
        ったのである。
 
ううむ、たしかに「魔物」だし、
「あまりのおもしろさにふと危惧さえ感じ」てしまう。
この詩集を読む前にこの評を読んだときには
おおげさに、と思ったものだが
読んだあとではそこにリアリティを感じてしまう。
 
詩の内容を現実の生活と重ねてみようとは思わないが
その壮絶な詩の背景にあるものを想像してみると
少なくとも平穏なイメージはまずわかない。
『(お)もろい夫婦』などは、ほんとうに怖くなるほどのもの。
「芸のためなら女房も泣かす・・・」とかいう歌があったけれど
こんなに芸にあふれた言葉のために平田俊子は
ひょっとしたらすべてを犠牲にしてしまっているのではないか。
そんな下世話な想像までさせてしまう。
言葉とはおそるべきものなり。
 
 

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