風のブックマーク2004
「漫画」編

 

山下和美『不思議な少年』


2005.2.13.

□山下和美『不思議な少年(1〜3)』(講談社)
 
人間というのは不思議な存在だ。
年を経るにつれてますますそう思うようになった。
物心ついたとき、自分が人間として生きていることが
とても居心地のわるい感じがしたことをなんとなく覚えている。
人間というよりも、自分がいまこうして生きていることや
自分が置かれているさまざまな環境や人間関係、
といったほうが近いだろうが。
 
小さい頃には、できればこんな生から
できるだけはやくいなくなりたいとさえ思い、
思春期には自分をもてあましながら、
はやく死ぬためのなにかを探していたといえるかもしれない。
それほどに世界はますます「意味」をなくしていった。
 
小学生の頃だろうか、なにかの本か夢かしらないが、
とてもふかくぼくのなかに刻まれている話がある。
お釈迦さんは、悟った後、
そのことをだれにも伝えることができないだろうことを思い、
地上を去るか、誰にも伝えないままに過ごそうとしたが、
思いとどまり、それを不完全であるにせよ伝えることを決心した。
そういう話だ。
 
今もときおり、すべてが馬鹿げて無意味にみえるときがあるのだが、
ようやく人間のそして世界の不思議なありようを
もっと知りたいと思うようになってきているようだ。
ただまだまだ自分が何か人間や世界に
「関与」しようとかいう思いにはかぎりなくほど遠い。
できれば少し人間にも世界にも距離を置きながら
じっとそれを見ることができればというちょっと馬鹿げた思いにもなるのだが、
実際のところは、ぼく自身も人間であり、世界の中に織り込まれていて、
そのなかであっぷあっぷ溺れかけているのかもしれないのである。
 
前置きが長くなったが、この『不思議な少年』という漫画は、
時空を超えてさまざまな時代と場所に現れて
人間をじっと見届けるという少年が主人公となっている。
人間を深く見透かしていると同時に、
人間へのわからなさに深く動揺したりもするところが心に響く。
 
こんな話だ。
(3巻の最後に広告として乗っているストーリー)
 
	終戦前後の日本に生きる家族を縛る「血」と「土地」
	19世紀末のロンドンを懸命に生きる身寄りのない少女
	生きる目的を知らぬまま戦国乱世を駆け抜けた一人の青年
	戦後の日本、神に愛された声を持つ悲しき男
	その驚くべき探求心で、死をも知ろうとする古代ギリシャの哲学者
	遙かな未来。人からも神からも忘れられた土地に、二人きりで静かに 
生きた夫婦
	無罪を主張する青年と妻を介護する老人が起こす、百万年に一度の奇跡
	変わらない日常に、感覚が麻痺した現代のサラリーマン一家
	誰もが未踏の地に憧れた、探検家の活躍した時代に南極で遭難した二人の男
	今から約100年ほどの昔、時代の変わり目を生きた貴族エッシャー家の少女
 
どのストーリーにもその「不思議な少年」が
さまざまなかたちで関わりながら、それぞれの人たちのことを「見届け」る。
さて、その「不思議な少年」がぼくのところに現れるとしたら、
ぼくはどのように「見届け」られることになるのだろう。
 
さて、この作者の山下和美。
じつはこの『不思議な少年』の一巻目を
一年以上も前に手に入れていたもののそのままになっていて、
そのときに、そういえばそんな名前を見たことがある、
「天才 柳沢教授の生活」という作品とかあったな、という程度だったのが、
少し前雑誌かなにかで紹介されていたのをきっかけに読もうと思った次第。
現在3巻目で刊行され、次は今年の秋頃になるという。
年に一度ほどの楽しみが増えることになって、少しうれしい。
 
 

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