風のブックマーク2004
「漫画」編

 

あすなひろし


2004.10.9

■あすなひろし
 『青い空を、白い雲がかけてった』
 『いつも春のよう』
 (BEAM COMIX 2004.7.7.発行)
 
懐かしい、あすなひろしの作品集2冊を見つけた。
1975年から1982年にわたる作品集。
週刊少年チャンピオンやビッグコミックオリジナルに
連載されていた作品群から集められている。
 
あすなひろしが、2001年3月22日、肺ガンのため
60歳で亡くなっていたことを知った。
ぼくはこれらの作品集の頃のあすなひろししか知らない。
それ以前も、そしてそれ以降の作品もぼくはまったく知らないでいる。
 
『青い空を、白い雲がかけてった』のあとがきにある
大月隆寛の解説によれば、あすなひろしは少女漫画描きから出発し、
劇画時代へと移行し、そしてこうした少年漫画の世界で描き始めたようである。
それ以降の約20年間については記載がないのでよくわからないが、
ひょっとしたら少年漫画の世界を去って劇画に戻ったのかもしれない。
しかし、あすなひろしがあすなひろしであるのは
ここに収録されているような、
糸井重里が「真っ昼間の悲しさ」と形容した世界ゆえのものなのだろう。
こうして集められた作品がその時代のものだけであることがそれを表している。
 
ぼくがかつて読んでいたのは、週刊少年チャンピオンに連載されていた
『青い空を、白い雲がかけてった』をはじめとした作品。
この時代、少年チャンピオンには、
「ブラックジャック」や「がきデカ」や「マカロニほうれん荘」など
一時代を画した作品が連載されていたのだ。
その不思議に輝いていたひところの時代の少年漫画たち・・・。
 
その後、その作品をみかけることがなくなった後も
おりにふれてあすなひろしの作品の、あの独特な、
まさに「真っ昼間の悲しさ」を思い出す。
 
今あらためて作品を読み直してみても
そのとき読んでいたときの「感じ」が
決して失われていないことに驚いた。
もちろん使われているネタにはその時代特有のものがあって
それはそれで「その時代」以外の何者でもないのだけれど、
むしろここに表現されている「真っ昼間の悲しさ」を表出し得る
なんというか、不思議に静かな「間」、
ストーリーの最後に感動とともに訪れる、時間の止まった流れのようなものは
むしろ現代では失われてしまっているかもしれない、
常に新鮮であり続ける表現だといえるようにも思う。
 
ぼくは漫画で育ってきた。
小学校のはじめのころから大学の頃まで、
漫画はいつもぼくのなかで特別な位置を占めていたともいえる。
そのなかでこの、あすなひろしの漫画は
内田善美や坂口尚などのような存在とともに
ぼくのなかにある特別な場所を占めている。
ことばをかえていえば、それらの漫画たちによって
ぼくのなかのなにがしかが形成されているということ。
 
そういう存在にこれからも出会いたいものだと思うが、
こうした、まだぼくがぼくである以前のような時代に出会えたものたちは
やはりその特別さがきわだっているような気がする。
 
 

 ■風の本棚メニューに戻る

 ■神秘学遊戯団ホームページに戻る