風のブックマーク2004
「芸能」編

 

ご存じ古今東西噺家紳士録


2005.4.18

■ご存じ古今東西噺家紳士録
 (発行/エービーカンパニー・発売/丸善 2005.2.15発行)
 
先週からTBSの落語ドラマ「タイガー&ドラゴン」がはじまった。
初回のネタは「芝浜」。
よくできたドラマだという印象はとくにはないけれど、
よく工夫された、チャレンジ精神の旺盛で元気いっぱいのドラマである。
また、春風亭昇太のCD付ブック『はじめての落語』も話題であり、
たぶん「落語」がなにかとブームになりかけているのかなという感じがしている。
 
「お笑い」のブームはそれはぞれでいいけれど、
あまりに刹那的で、広告のキャッチフレーズだけのようなあり方には
うんざりしてしまうところがある。
志ん朝なきあと、落語が衰退していくのではないかという懸念もあったようだが、
未だ談志は健在であるし、その一門は今気を吐いているらしい。
鶴瓶も今静かに落語で注目されつつあるようだし、
あのこぶ平さえ、九代目の正蔵になったところである。
 
そんななか、この「ご存じ古今東西噺家紳士録」が刊行された。
これは五年前に刊行されたもののニュー・バージョンだということなのだけれど、
亡くなった噺家260名以上、約270席、3000分の落語が収録された
CDーROMがついている。
いちばん古い音源は、明治36年(1903年)のものであり、
大変貴重なものがたくさん収められている。
しかも、過去の噺家の系図等のデーターベースもある。
最近、落語に目覚めたぼくとしては、大変重宝する企画であって、
これをガイドにしながら落語の昔を探りながら、
今起こっている「落語」についてのさまざまについて感じ、考えていくことができる。
 
この企画をまとめるには大変労力がかかるだろうし、
ふつうの「お笑い」関係のような派手さもないぶん、
注目も集めにくいかもしれないが、
こういう企画にこそ影ながら応援したい気持ちになってくる。
 
さて、この企画を編集した苦労人、瀧口雅仁さんの
この企画についての「思い」を少しご紹介することにしたい。
別冊の都屋歌六著「思い出の楽我記手帳」のあとがきから。
 
	本作だが、「落語辞典」「落語家辞典」「落語音源辞典」の要素を担って
	いると確信しているが、最新版を企画・編集するにあたって、史実の強化
	と更新、新資料の収載、音源の差し替えを行ったことは、再三申し上げる
	までもないだろう。その中でも、音源に関して、制作者の一員として、記
	しておきたいことがある。
	まず、残されている音源が“意外と”少ないことだ。落語音源の歴史は、
	日本におけるレコードの歴史と同じく、明治36年(1903)に始まる
	が、そう考えると、落語音源の歴史は、落語四百年の歴史の四分の一にし
	か過ぎない。あの三遊亭圓朝の音すら残っていないのが事実だ。ところが、
	その百年の歴史が実に濃いことも否定できない。圓朝の高弟である四代目
	橘屋圓喬や、二代目圓朝を襲った初代三遊亭圓右、夏目漱石が絶賛した三
	代目柳家小さんに、芸の為なら女も泣かした初代桂春團治。衰退する上方
	落語を支えた五代目笑福亭松鶴、戦後の爆笑王・三遊亭歌楽、最大のライ
	バルであった五代目古今亭志ん生と八代目桂文楽、二代目桂枝雀に三代目
	古今亭志ん朝…と、音に残る古今東西の名人・名作を挙げたら枚挙に暇が
	ない。
	そして、それらの音に耳を通せば、片面3分のSP盤から、近年のライブ録
	音にいたるまで、それぞれの時代の特徴を示しつつ演じていながらも、今
	もって古く感じさせない芸の力がそこにあることが分かる。より強い権威
	や重みのある伝統といったものに傾倒しがちな日本文化の性格が故、日本
	文化史的観点から見れば、華やかなスポットを当てられることは少なかっ
	たが、立派に日本文化の一端を担っていることは自明である。
	 そうしたなか、名人達の声が残り。それらを集大成として見られる本作
	は、手前味噌ながら意義のある作品であると思っている。だが、「落語家
	辞典」的要素からすれば、是非とも音を収録したかったが、音が残ってい
	ないが為に収録できなかった落語家がいたのも事実である。・・・
 
今、関山和夫『落語名人伝』(白水Uブックス)など、
江戸以降の落語家についてのものなどをいろいろ読みながら、
やはり明治の圓朝以降の落語について
その概観を得ようとしているところに、
こうした落語家辞典のような音源を見つけられたことは大変うれしい。
なにかを理解しようと思うときに持ちたい視点は、
一点突破型のようになにかを集中的に深めていくやり方と
広く見取り図を得るというやり方の二つを反復横跳びすることなのではないかと思う。
こういう資料集があれば、その反復横跳びもさらに楽しく
充実したものになってくるわけである。
 
ああ、面白い。
 
 

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