風のブックマーク2004
「芸能」編

 

小沢昭一『寄席の世界』


2005.2.5.

■小沢昭一『小沢昭一がめぐる寄席の世界』
 (朝日新聞社/2004.11.30発行)
 
スローフードが注目されているが、
スローフードがこれまでなかったわけではない。
また、だからといってファストフードがダメだというわけでもない。
しかしファストフードの味しかわからなくなってしまうと、
ちょとまずいのではないかという感じはやはりあったりする。
 
いわゆる文化的な部分についても、
若いという要素とわかりやすいという要素、
そして短い時間で享受できるという要素ばかりが全面にでてきて、
そうでない部分が味わえないようになってくると
やはり貧しいのではないかと思ってしまう。
 
このところ小沢昭一関係に半ばどっぶりつかっているところがあるが、
これは2003年6月号から2004年5月号まで「論座」に連載された
一年間にわたる12回の「寄席」をめぐる対談が収録されている。
 
対談の相手は、次のような寄席関係の人たち(収録順)。
 
・桂米朝
・延広真治(落語史の研究)
・柳家り助(落語家/40歳をすぎてから入門/現在二つ目)
・桂小金治
・国本武春(浪曲師)
・小松美枝子(お囃子)
・神田伯龍(講談師)
・あした順子・ひろし(漫才師)
・笑福亭鶴瓶
・北村幾夫(新宿末広亭席亭)
・立川談志
・矢野誠一(落語評論家)
 
この人たちのなかでこれまで名前も知らなかった方も何人もいたりしたが、
この対談を読んで、いままで自分のなかに意識されてこなかった
というか場所をもっていなかったさまざまな「スローフード」の部分が生まれ、
そのことで、とても豊かになったような気がしている。
しかも、年をとるということの豊かさの可能性についても
あらためてとても具体的にいろいろ考えさせられたところが大きい。
シュタイナーは、過去においては年をとるだけで
ある種の叡智を獲得することができたが、
現代ではそうではないという。
つまり、年をとらなければ獲得しえない部分はあるが、
獲得するためにはそれなりの営為が必要だというのである。
 
それはともかく、そういえば、このなかで鶴瓶のことは、
昨年から「ほぼ日」でのインタビューなどもあって、
その関係からも、落語を(CDではあるけれど)きく機会が
ずっとふえてきていて、その意味でもこの対談集はとてもタイムリーだった。
 
小沢昭一の視点がとても好きなのは、
その視点が決して過去を向いてはいないところである。
「芸」の成立している世界は現在であって、
いわゆる「伝統芸能」を保存しようというのではない。
伝承されていたものを生かす可能性に奮闘しているのである。
 
とにもかくにも、たとえば落語にしても、
きいておもしろくなければ話にならない。
しかしそのおもしろさをファストフード的にしかきけないとしたら
それはとても貧しいことだと思う。
やはり「聞く耳」をちゃんともたなければと切に思うのである。
 
 

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