風のブックマーク2004
「神秘学」編

 

パラケルスス『奇蹟の医の糧』


2004.12.26

■パラケルスス『奇蹟の医の糧』
 医学の四つの基礎[哲学・天文学・錬金術・医師倫理]の構想
 (大槻真一郎+澤元亙 訳/工作舎/2004.11.10発行)
 
シュタイナーの医学関係の講義内容は、パラケルススに通じているところがある。
しかしシュタイナーも述べているように
それはパラケルススをもとにしているのではなく、
シュタイナーが霊学の一環として導出してきたものである。
とはいえ、やはりシュタイナーが講義のなかで紹介している
パラケルススについてのあれこれは知っておいたほうが
理解のガイドにはなるはずなので、やはりこういう本は
おりにふれていちおう目を通しておきたい。
 
見返しの帯にこういう紹介がある。
 
	文献に医学の真理があると信じて患者を診ようとしない医者
	金持に親切な反面、貧乏人には目もくれない医者
	既得権益を守るのに汲々としている医者・・・・・・
	現代にも通じる「とんでもない医者たち」に鉄槌をくだし
	本来あるべき医術の四本柱を提唱する。
	ミクロコスモス(人間)とマクロコスモス(宇宙)が響き合う
	世界の実現にむけて
	代替医療から統合医療への道は
	つとに拓かれていた
 
最近になってようやく「代替医療」ということが
少しは提唱されるようにはなってきているが
たしかに「統合医療」というのは
まさに「見果てぬ夢」のようなものでしかない。
結局「統合医療」はまさに神秘学の実践以外のなにものでもなく、
それだけに非常な困難さに満ちているのだといえる。
シュタイナーの医学関係の講義内容がきわめて難しいのも
それがまさに「統合医療」を示唆しているからだといえる。
シュタイナー教育というのも、ある意味で
その統合医療を背景にしているともいえるわけで、
それほど困難な課題を担っている。
 
さて、上記の引用で、「医術の四本柱」というのがでているが、
それは、サブタイトルに
「医学の四つの基礎[哲学・天文学・錬金術・医師倫理]の構想」とあるように、
「哲学」「天文学」「錬金術」「医師倫理」の4つである。
裏の見返しのところに、わかりやすくそれぞれの課題が
一行ずつ書かれてあったりするので、少し安易だけれど引用しておく。
 
	医学の第一の基礎ーーー「哲学」
	◎空理空論に頼らず、自然に学べ
 
	医学の第二の基礎ーーー「天文学」
	◎森羅万象の理解から人間の理解がはじまる
 
	医学の第三の基礎ーーー「錬金術」
	◎医薬の調整によりアルカナにいたる
 
	医学の第四の基礎ーーー「医師倫理」
	◎治療は病人に会う前から始まっている
 
本書は親切なことに、パラケルススの翻訳だけではなく、
本書についての比較的ボリュームのある「解説」が付されている。
その「解説」は著作の各章についての「解説」だけではなく、
理解のために「特徴表示説」「アナトミー」「思弁哲学」
「アルカナ」「カオス」「自然」というキーワードについても
比較的詳しく「解説」されていてうれしい。
そのキーワード解説のなかからおそらくいちばん耳慣れないであろう
「アルカナ」のところの最初のところを少し参考までにご紹介しておきたい。
 
	パラケルススの錬金術は、アルカナ(arcanaはarcanumの複数形)を製造する
	術であり、したがってその学説は「アルカナ説」とも呼ばれる。彼の医学に
	おいてアルカナは最も中心的な役割を果たす。そもそもアルカヌムという語は
	ラテン語のアルカ(arca)からの派生語であり、アルカは、お金などを入れて
	おくための小さな入れ物や箱を意味した。その形容詞の中世形がアルカヌムで
	ある。アルカヌムという名詞化した形容詞は、すでに、秘密とか神秘とかなど
	を意味し、宗教的儀礼の用語として用いられていた。中世にいたって錬金術用
	語として用いられ、初期近代では医学薬学の用語としても使われるようになっ
	た。
	パラケルススもまた、この用語を自分の医学薬学の理論の中に導入した。
	(・・・)
	では、彼の言うアルカナとはどんなものだろうか。アルカナが万能薬であるの
	は当然であるが、パラケルススによると、錬金術における第五元素の探求こそ
	がまさにアルカナの探求にほかならない。・・・
 
このアルカナというのは、ホメオパシーの原理とも
通底しているところがあるようである。
 
さて、パラケルススの著作には「パラ三部作」と呼ばれている次の作品があるそうで、
『ヴォルーメン・パラミールム』(パラミールム前書)
『パラグラーヌム』
『オプス・パラミールム』(パラミールム後書)
最初の『ヴォルーメン・パラミールム』は、おなじ工作舎からでていて
新装版として刊行されなおした『奇蹟の医書』であり、
次の『パラグラーヌム』は、この『奇蹟の医の糧』であって、
当初「パラ三部作」だけではなく、
『パラケルスス医学用語辞典』『パラケルススの特徴表示とホメオパシー医療』や
その他のパラケルススの膨大な著作の翻訳なども計画されていたようだけれど、
ようやく今回「パラ三部作」の「第二の書」が刊行されることになったようである。
 
パラケルススについて読むことのできる邦訳の文献は
きわめて少なくなかなか理解しがたいところがあるが、
こうした訳者の方の地道な努力でぜひ計画のなかの少しでも
進展していくことを願わずにはいられない。
 
 

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