風のブックマーク2004
「思想」編

 

堀田善衛『時代と人間』


2004.3.4

■堀田善衛『時代と人間』
 (徳間書店・スタジオジブリ事業本部/2004.2.29発行)
 
1992年の「NHK人間大学」のテキストを
単行本化したものとということだが、
10年以上前に「NHK人間大学」に出演していたことを知らなかった。
知っていたら必ず見たはずなのに、
1992年にはぼくはまだ堀田善衛を読み始めてはいなかったのだ。
「ジブリ学術ライブラリー」としてその映像が
DVDに収められ発売されたところだそうであるが、
ううん、DVDかけられないし、そこまで購入しようとは思わないけれど、
堀田善衛という人は、読めば読むほどに、
ぼくにとってはとても信頼感あふれる人となってきている。
 
その著作やこうした記録を今回、「スタジオジブリ事業本部」が
出版したりしていることは注目である。
ジブリのこういう側面というのは見過ごしてはならないように思う。
そういえば、宮崎駿には堀田善衛と司馬遼太郎との鼎談である
『時代の風音』(朝日文芸文庫)というのがあるくらいなのだ。
 
それはともかく、この『時代と人間』には、
堀田善衛の主要著作のテーマ、鴨長明、藤原定家、モンテーニュ、
ゴヤなどが凝縮されていてしかもそれがまるで語りかけているように読める。
堀田善衛ファンとしてはとても嬉しい刊行である。
 
しかも、「解説」にある高橋源一郎の
「堀田さん、どう考えたらいいんでしょうかね」がとてもいい。
ぼくがなんとなく思っていたことを
見事に言葉にしてくれている。
本書及び堀田善衛の紹介を兼ねて、そこから少し引用することにしたい。
 
         同じ文章を読んでも、同じ事件を見ても、なにも考えない人は考えない。
        少ししか考えられない人は、少ししか考えない。けれど、どこまでも、考え
        尽くせるところまで考えようという人に対しては、時に、誰も見たことのな
        い風景が見えてくるのだ。
         
         もしかしたら、私は、「堀田さんの考えたこと」だといって、みなさんに、
        自分の想像を少し押しつけたかもしれない。だったら、ごめん。
         でも、堀田さんの書いたものを読むと、わたしは、いつもこんな風に、考
        えすぎてしまう。堀田さんは、どう考えるのだろうと、考える。それから、
        なにか事件が起こると、なにか大きな問題が、目の前に現われると、やはり、
        堀田さんならどう考えるだろう、と思ってしまう。
         でも、それでいいのだ。
         誰も、いきなり、なんの前提もなく、考えはじめたりはできない。だから、
        わたしは、ほんとうに道に迷い、なにをしたらいいのか、なにが正しいのか、
        なにがおかしいのか、すっかりわからなくなってしまったら、とりあえず、
        「堀田さんなら、どう考えるだろう」と考える。でも、わたしは、こう付け
        加えたい。
         そんな風にして、「堀田さんならどう考えるだろう」と思って、あなたが
        考えたことは、結局、堀田さんの考えではなく、「あなたの考え」なのだ。
 
そう、ぼくもそんなふうに「考える」ことはけっこうある。
「堀田さんなら、どう考えるだろう」とか、
もちろん「シュタイナーなら、どう考えるだろう」とか。
そういう人をたくさんもちたいと思う。
そうして「〜なら」というとき
いろんなテーマがそこにあって、
一人だけだと対応しきれないところもあるので、
(シュタイナーだってなんでもOKなわけではもちろんないのだから)
この多次元的多面体的な宇宙を生きている以上、
いろんな次元と面における「〜なら」を持てたらうれしい。
音楽だっていろんな音楽をきけたほうが楽しいし。
 
ともかく、堀田善衛という人は、
ぼくにとって「〜なら」というときに
思いつくことのとても多い人なのだ。
ぼくもこういうジサマになれたらいいのだけれど、
とってもむずかしいだろうなと思う。
でも、少しでも堀田善衛という人の考えたことを
折にふれて読んでみることで、
堀田善衛という人の考えを自分の考えとしても
なにがしか獲得していくこともできるわけである。
こんなにうれしことはない。
今も、ぼくは『ラ・ロシュフーコー公爵伝説』(集英社/1998.4.10発行)を
少しずつ読み進めながら、ぼくの考えを少しでも
広げてみようとしているところである。
これはなかなか得がたい体験になる。
 
 

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